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是正6

 魔物を倒しながらセフィラの魔力を追って駐屯地内を進むと、到着したのは何故か資材置き場だった。
 それも地下からセフィラの魔力を感じる。一緒にティファレトさんと覚えのない気配が一つ。ただ、そのもう一つもティファレトさんと似た感じなので、人間ではなくセフィラが造ったロボットだろう。アンドロイドというんだったか? ボクにはよく分からないが。
 まあなんでもいいや。やる事は変わらないし。
 まずはセフィラ達と話す前に、既に地下へと侵入を始めている魔物達を倒す事にする。その前に邪魔な地上部分の魔物達へと、そこら中に散らばっている色々な物を巻き込んだ風の刃を放つ。それも一つや二つではない。初級魔法にあるまじき威力で発現させた風の刃を十、二十と発現させて、四方八方に放って魔物を一気に両断していった。
 弱い魔物なだけに面白いほど呆気なく全ての魔物を倒せたので、セフィラ達が居る地下へと近づいていく。
 その間に地下に居た数体の魔物は殲滅されたようで、声を掛けてみれば地下から懐かしい声が返ってきた。

「ジュライ!!」

 それは確かにボクの名前だが、セフィラにはオーガストと名乗っていた様な・・・ああそういえば、兄さんがこの身体をくれた時に、世界の認識を変えたんだったな。そのおかげで今まで出会った人々の記憶の中にあるオーガストという名はジュライに置き換わったんだった。
 なんだかそれをひどく懐かしく思いながらも、穴の中を覗き込む。
 魔物が開けた少し大きめの穴の中を覗き込むと、そこには穴の下まで移動してこちらを見上げているセフィラの姿。

「元気だった?」

 とりあえずそう声を掛けてみる。多少汚れてはいるが、セフィラは綺麗なものだ。まだ余裕があったのかもしれないが、内包している魔力量は結構減っているから、見た目だけでそうでもなかったのかも。

「まぁ、ほどほどにね」
「そう。出られる?」
「問題ない」

 セフィラの返事を聞いた後、数歩下がって穴の周辺を空ける。これであとは勝手に出てくるだろう。
 その間に周囲を片付けておくかと思い、散乱している資材を風の魔法を使って一ヵ所に集めていく。
 元から廃材の様なものだったが、風の刃にも使用したりで更にバラバラのボロボロになっていた。それでも、もしかしたら何かに使えるかもしれない。なによりそこら中に散らばっていたら邪魔だ。危ないし。
 そうして綺麗にしている間にセフィラ達が地上に出てきた。ティファレトさんに大事そうに横抱きに抱えられたセフィラが穴の中から飛び出てきた時には、ちょっと笑いそうになったのは秘密だ。
 その後に男性が遅れて穴の中から飛び出てくる。造られた存在とはいえ、中々に渋くて整った顔立ちだな。ただ、その顔を見て苦労人っぽいと思ってしまったのは申し訳ない。
 三人が地上に出てくると、セフィラがティファレトさんに丁寧に地面に下ろされる。まるでお姫様のようだ。セフィラは色白で細身だから女性っぽいし。顔も前髪で目元を隠しているが、それでも整っているのが分かる。それも女性っぽい、どことなく優しい感じの面立ち。化粧をしなくとも、黙って立っていれば女性と間違える者も結構居るだろう。残念ながら声がやや低いので、喋ればバレそうだが。・・・それでも押し通せなくもないか。
 そんな事を考えているのを察したのか、セフィラがじとりとこちらに目を向けた。相変わらず勘が鋭い。

「久しぶりだね」

 誤魔化すように声を掛けると、セフィラは頷いてそれに応える。
 そのまま視線をティファレトさんに向けると、ティファレトさんは優しく微笑み軽くお辞儀をした。

「お久し振りですジュライさん。まずは助けていただいた感謝を」

 そう言って、今度は深く頭を下げるティファレトさん。それに倣ってか、男性も深く頭を下げる。セフィラは変わらずそのままだが。それでも感謝はしているようで、「助かった」 と一言だけ告げられた。

「それで、どうしてここへ? 確かもう先の学年に上がっていたはずでは?」

 頭を上げたティファレトさんの疑問に、ボクはジーニアス魔法学園を辞めて人間界を出た事を話す。あれからそれなりに経ったが、いくら同じ学園に通っているといっても、他の生徒の情報はわざわざ集めない限りはそうそう耳には入ってこない。ましてここは学園ではないし。まぁ、詳しい経緯は面倒だし、わざわざ話す事でもないので省いたが、それで十分だろう。

「人間界の外へ、ですか。では、ますます何故ここにジュライさんがいらっしゃるのですか?」

 説明を終えると、ティファレトさんが当然の疑問を口にする。まぁ、とうに人間界の外に出たはずなのだから、わざわざこんな場所に居るのはおかしいからな。
 それに関しては、人間界が魔物の襲撃を受けた事を知って、知り合いを助けに来たと素直に話した。しかし納得出来ないのか、ティファレトさんだけではなく他の二人も首を傾げた。
 それを見て、何かおかしかったかと思っていると、セフィラが疑問を説明しながら問い掛けてくれる。

「魔物の襲撃が本格的に始まったのは今朝だ。確かに今までも緩い攻撃はあったが、それでもわざわざ助けに来るというほどではなかった。ジュライの今の話を聞くに、今朝の襲撃を知ったから来たという風に聞こえたのだが?」

 そう言ってセフィラが疑問に感じた事を丁寧に説明してくれたが、そういえば普通は遠方の情報をすぐさま得るのは難しいのか。それも人間界の外からすぐさま情報を得て駆けつけてくるなど色々と疑問に思うのも当然か。どうやらプラタの能力に頼り過ぎて、そんな事もすっかり失念していたようだ。
 セフィラ達の反応に納得したところで、どう説明すればいいのかと考える。普通にプラタに、というか妖精に協力してもらって転移で来たと言ったところで信じてもらえるかどうか。
 しかし、もしもセフィラ達がボク達の国に来る事を承諾したならば、プラタに転移や向こうでの手続きなどを任せる事になるから、今の内に教えておいた方がいいのかな? ・・・まぁ、教えるにしても、妖精である事までは伝えなくてもいいか。
 そう頭の中で纏めると、離れた場所の情報を取集出来る能力を持った者が居る事と、ここまでは転移を使ってきた事を説明した。
 信じてもらえるか不安ではあったが、セフィラ達は特に疑いもせずに信じてくれた。代わりにもの凄く驚かれたが、それは人間界の事情が変わっていないのであれば、納得出来るものだろう。転移ですらまともに使える者がどれだけ居ることか。
 それに加えて、遠方の情報を得る事が出来るという能力だ。それも今朝起きた魔物の侵攻をほぼ同時に得ているのだから、その精度と脅威は如何ほどのものか。下手すれば襲撃された人間側よりも早く情報を得ているのではないかと考えてしまうほどだ。・・・いや、プラタなら兆候から予測していた可能性もあるか。それどころか何か企んでも、その企んでいる会話を一緒に聞いている可能性すらあった。そう考えると、プラタが味方で本当に良かったな。
 遠方の情報収集と転移。それを一度に聞かされたのだ、それは驚きすぎて固まるというもの。それもそんな話を聞いても疑わないぐらいに信用している相手からであれば尚の事だろう。
 少しして再起動したセフィラが何とも言えない表情を浮かべた。驚きや呆れ、それに少量の畏怖も混じってそうな複雑な表情だが、今はそんな事に気を回している余裕はない。挨拶と説明が終わったならば、次はこれからの事と、その返答如何によっては国について説明しなければならないのだから。それもセフィラ達以外にも人間界には何人かいるのだ。現在魔物の襲撃を受けている最中だから、出来るだけ急ぎたいところ。

「それで、これからどうするの?」
「これから、ね。今回の魔物の襲撃には流石に人間は耐えられないと思うんだ」

 セフィラの言葉に、ボクはそうだという気持ちを込めて頷く。現在中級以上の魔物の群れが四方から人間界を襲撃している最中である。プラタがナン大公国の方面に転移で連れてきたから、そのままナン大公国に入ってセフィラ達を助けたが、他の三国であるユラン帝国・クロック王国・ハンバーグ公国の方も心配だ。
 今回の魔物の襲撃は、南のエルフを攻略したから行われているものなので、襲撃している魔物の中には当然上位の魔物も混ざっているだろう。それを考えれば、どの国も安全とは言い難い。マンナーカ連合国だけは今少し猶予があるだろうが、それもほんの少しだ。ま、マンナーカ連合国には知り合いは居ないのでどうでもいいが。

「だから、ここに残っても死ぬだけだ。折角助けてくれたのに申し訳ないが。かといって他に行く当てもない。人間界はいつか出たいとは思っていたが、今は平原にも魔物が大量に居るからね。ぼく達では到底生き残れそうにないよ」

 言い終わると、悟ったように力なく笑うセフィラ。
 確かにこのまま放置していれば、セフィラ達は何処かで魔物に殺されるだけだろう。人間界もこのままだと直ぐに無くなるだろうし。なので、思いきってここで提案してみることにした。

「じゃあ、別の場所に移住するのはどう?」
「そんな場所が在ればいいけれど、そんな場所はないし」
「在ったら?」
「・・・・・・在るの? いやまぁ、その場合は喜んで移住するけれど」
「そっか。それじゃあ移住してみる? ボクが現在居る国に」
「ジュライが居る国って、人間界の外だろう? ぼく達が行っても大丈夫なの? というか、どうやってそこまで行くの? 今言ったけれど、平原も魔物だらけだよ?」
「大丈夫だよ。移動も転移で移動すれば問題ないし、住む場所ぐらいはこちらで用意するよ。まぁ、言葉の壁ぐらいはあるだろうが、その辺りは頑張ってよ。協力はするからさ」

 プラタと言わないまでも、誰かしらに頼んで言葉を教えればいいし、何ならそれ用の本でも作ればいいだろう。もしかしたらプラタがその辺りはもう手配しているかもしれないし。
 そう思いながらセフィラ達に説明しつつ、裏ではプラタに呼びかける。このままセフィラ達を転移で連れて行ってほしいからね。ボクでも人間界ぐらいなら、何度か転移を重ねれば好きに移動は出来るだろうし。
 世界の眼はまだ使用していないが、おそらくここで使用すれば、肉眼で見るより先までは捉える事が出来るだろう。それも前方に特化させればもっと先まで視えると思うし、そうして実際に使用していくのも大事なことだからね。
 セフィラ達への説明が終わるよりも早く、プラタとの連絡がついた。どうやらアルセイドの方に行っていたようだが、直ぐにこちらに来てくれるそうだ。
 その事に安堵しつつセフィラ達への説明を終えると、それを図ったかのようにボクの斜め後方にプラタが転移してきた。
 突然現れたプラタに、セフィラ達は驚きながらも警戒する。
 それに敵ではない事と、これから転移でセフィラ達を連れて行く者である事を説明していく。
 説明を終えると、改めてプラタを紹介した後、ボクが最も信頼している相手である事も付け加えておく。荒唐無稽とも思える話を直ぐに信じてくれたのだから、ボクが信じている相手なら間接的にでも信頼してくれないかと打算を働かせてみたのだ。まあ実際、プラタの事は信用しているからな。
 それが効いたのか、セフィラ達はまだ少し警戒しながらも、それでも大分落ち着いてくれた。
 これなら大丈夫だろうと思い、プラタに後を任せる。向こうでの手配なんかも、言っていた通りプラタがしてくれるだろう。
 そう思いプラタに頼むと、「畏まりました」 と頭を下げて了承してくれる。
 プラタはボクの頼みを了承した後、セフィラ達に近づき転移していった。
 それを見送った後、ボクは何処に行こうかと思案する。

「ハンバーグ公国か、ユラン帝国か。マンナーカ連合国は別にどうでもいいけれど、その先のクロック王国にも急いで行きたいからな・・・」

 こんな時でも魔物の侵攻は続いているので焦る気持ちはあるも、それでもまずは落ち着いてナン大公国の隣国であるハンバーグ公国かユラン帝国から訪れるとしよう。

「ハンバーグ公国にはオクトとノヴェルが居るし、ユラン帝国にはペリド姫達か」

 目的となる人物達を思い浮かべて、どちらにするかを決める。

「まずオクトとノヴェルだが、そこにクル・デーレ・フィーリャ・ドゥーカ・エローエ様を加えた三人は、プラタの話では連携するとボクでも苦戦するらしい。であれば、少しぐらい遅れても問題ないか? いや、魔物は広範囲からやってきているから、連携なんてそもそも取れているかも怪しいところか。それでも、基本的に攻め手は中級程度の弱い魔物達ばかりなのだから、単体でもそれなりに戦えるであろう三人ならば、それでも問題はあるまい。というか、それぐらい出来てもらわなければ、三人で連携するという前提とはいえ、苦戦するという評価を下されたボクの立つ瀬がない。ならば、こちらは後回しでもいいか。そうなるとユラン帝国を先という事になるが・・・ペリド姫達を助ける必要はあるのかな?」

 別にペリド姫達の事が嫌いな訳ではない。だが、あんなことがあった場所だ。個人的にはユラン帝国には近づきたくもない。わざわざあんな中に行ってまでペリド姫達を救う意味はあるのだろうか? パーティーを組んでいたとはいえそれも短い期間だし、正直今のボクにとってはただの知り合いでしかないと思う。
 そんな相手をわざわざ救って自国で保護する? 面倒でしかない気がするな。仮に保護したとしても、そう会う機会もないだろうし。

「・・・・・・クロック王国に向かってみるか」

 クロック王国にはジャニュ姉さんが居る。変わり者だが悪い人間ではないと思う。一応姉ではあるが、やはり実感はない。それでも世話になったような気がする。まぁ、とりあえず様子を見に行ってみるとしよう。
 しかし、ここからクロック王国まで行くのであれば、マンナーカ連合国を通過するかハンバーグ公国を経由した方がいいだろう。それであれば、ハンバーグ公国を経由して様子を見てみてもいいか。

「・・・・・・クロック王国にハンバーグ公国か」

 これから行く国の名前を思い出したところで、そこでふと思い出す。

「何人か救うのはいいけれど、そういえばボク達の国の名前って何だっけ?」

 自分の国の名前を聞いた覚えは・・・そういえば無い。あるのかどうかも知らないし、もしかしたらまだ決まっていないのかもしれない。プラタの事だから何かしら決めていそうだが、どうなんだろうか? 今まで国名を答える場面が無かったので全く考えもしていなかったが、プラタが戻ってきたら訊いてみよう。知っていた方が何かといいだろうし。というか、形だけでもボクが国主なのだから、知らなければいけないだろう。やはりボクには国の運営とか無理そうだな。
 改めて自分の駄目さを知ったところで、早速ハンバーグ公国に向けて移動を開始する。
 まずは世界の眼をハンバーグ公国側へと伸ばして、良さそうな転移地点を探す。しかし、魔物だらけなうえに色々と散らかっていて、中々良さそうな場所がない。というか、魔物はどれだけ侵入しているんだ? 防壁が一部なくなったとはいえ、多すぎるだろう。
 そう思っていると、ボクのところにも魔物がやってきたのを察知する。集中しているところなのだがと思いながら意識を戻すと、さっさと魔物を片付けた。やはり慣れない内は護衛が必要だな。
 しかし、一緒に来たプラタはセフィラ達を任せていて、今はここには居ないし、他に護衛を任せられそうな者は・・・あ! そこまで考えたところで丁度いい相手を思い出したので、その者の名を呼ぶ。

「タシ!」

 ボクが名前を呼ぶと、直ぐに影から漆黒の鳥がゆっくり姿を現す。ボクが最近創造した魔物であるタシだ。
 フェンやセルパンに比べればすごく弱いが、それでも中級の魔物ぐらいであれば戦えるはず。そう思って呼び出したのだが、タシの姿を見た瞬間、ボクは頭の中に光が満ちたような閃きを覚える。
 その閃きは、別に転移しなくてもタシに乗って移動すればいいじゃないか。というものであった。
 姿を現した漆黒の鳥であるタシに、背に乗せてくれるように頼む。タシがボクを乗せて飛行出来る時間はそれほど長くはないが、それでも飛行速度は結構速いので、人間界を横断するぐらいであればギリギリなんとかなるかもしれない。
 その場合は、風については今のところ自分でどうにかしなければならない。タシ自身は大丈夫らしいが、乗っている者の保護はまだ上手く出来ないらしい。まあそれは生まれて間もないのだからしょうがないが。元々誰かを乗せて飛ぶようには出来ていないだろうし、これから成長してくれればそれでいい。
 そういう訳で、了承してくれたタシの背に乗る。ここからマンナーカ連合国を突っ切ってクロック王国まで一直線だ。クロック王国の端にでも到着出来れば十分だからな。
 周囲の魔物はボクが対処しつつ、タシが飛びあがるのを大人しく待つ。とはいえ直ぐに飛びあがったので、大して待たなかったが。
 飛んだところで、風については自力で対処する。一度経験しているので、それは容易であった。
 ついでに思い出したので、タシの姿を下から見えなくする。問題ないとは思うが、現在人間界は魔物に襲われている最中だ。そんな中で魔物が空を飛んでいたら、撃ち落とそうとして攻撃してくるかもしれない。
 人間程度の攻撃では問題ないとは思うが、念のためだ。ここへは幾人か知り合いを救いに来ただけで、別にこの戦いに関わろうとは思わない。
 それに仮に攻撃でもされれば、敵対してしまうからな。勘違いであっても、ボクは攻撃してきた相手を赦すつもりはない。流石に勝てそうもなければ真っ向から反撃はしないが。
 まぁ、人間界なんて今のボクにとっても大したことのない場所だ。油断はしないが、そこまで気を張る必要もない。眼下の様子も、魔力視で視る限り大したものではないようだし。
 それにしても、流石はどの国境も平原と接していない国なだけあって、まだ魔物は到達していないようだな。それも直に到着しそうだが。
 確認出来ている最も近い魔物の位置と速度から考えると、あと十数分程度で到着しそうだ。マンナーカ連合国も報告を受けているのか慌ただしい感じではあるが、それでも何処か余裕を感じるのは、内陸部に在る国だからだろう。
 上から確認した人員については大した事がないので、おそらく、どうせ外の四ヵ国がどうにかして対処するだろう程度にしか考えていないんだろうな。確認した人員の中に最強位らしき人物も確認出来ないほどだし。
 まぁ、その慢心のツケは自分達の命で払う事になるので問題はないだろう。そのまま護りを抜かれてマンナーカ連合国は亡ぶのだろうが、そういえばマンナーカ連合国はよく分からない場所が在ったな。あの辺りは覚えていたら後で観察してみてもいいかも。様々な種族が共存して地下への入り口を守護する都市。その実力には多少興味があるかもしれないから。

「・・・・・・そうでもないか?」

 そろそろマンナーカ連合国を抜けようかとしているところで、ついそんな事を零してしまう。
 人間界に居た頃は興味があったが、今ではあまり興味がそそられない。これはおそらく、それ以上に混沌としているであろう国をプラタ達が創ったからなのだろう。なので、ちょっと統治機構や制度なんかには興味があるも、それだけだ。そして、その辺りは戦闘ではあまり分からない。防衛方面ぐらいは解るだろうが、そこは興味ないからな。こんな場所の防衛など、今更見る価値があるとも思えない。
 そんなことを考えている内に、クロック王国の中ほどまで到着する。タシの飛行速度は相変わらず速いものだ。
 ジャニュ姉さんは防壁の方に居ると前に聞いたが、現状でも生きているのであれば、後退している可能性が高い。なので、そろそろ速度を落として飛行してもらう。このままでは防壁すら超えてしまいそうだ。
 クロック王国の中ほどを過ぎて、防壁との中間地点辺りを飛びながら、眼下の様子を調べていく。ジャニュ姉さんの魔力であれば、視れば直ぐに判るはず。
 タシの飛行可能時間も気になってきたので、あと少し調べたら何処か人気の無い場所に下りてもらうとしよう。
 そう思いジャニュ姉さんを上空から調べていると、大分離れた場所に発見した。しかし、ジャニュ姉さんの近くに居るこの魔力は何処かで視た覚えがあるな。
 はて、何処だっけ? そう思いながらも、タシに目的地を伝えてそちらへと向かってもらう。
 空からなので目的の場所までは直ぐに到着したが、このまま下りるのはやめておいた方がいいだろう。そう思い周囲を探すと、少し離れた場所に人気の無い場所を見つけたので、タシに頼んでそこに下りてもらうことにした。
 タシがゆっくりと降下して着陸したその場所は、即席で作られた魔物の巣のような場所。大量に魔物が居るこの場所では、流石に人間は居ないだろう。上空から確認した限り、人間の魔力は確認出来なかったし。
 とりあえず降下しながら魔物の数を減らし、タシの着陸場所を確保する。
 その確保した場所にタシが着陸したら、周囲の魔物を殲滅しつつ、タシを労って影の中に戻す。長時間ボクを乗せて飛行したから暫くは休憩が必要だろうが、帰りはプラタが戻ってきているだろうから転移を頼めばいいか。というか、もうセフィラ達を住む場所に送って戻ってきているかも? 向こうにはプラタの代わりに説明役を担えるシトリーとかフェンとかセルパンが居る訳だしな。
 程なくして、着陸した地点に居た魔物の殲滅を終える。そこそこ逃げた魔物も居たようだが、わざわざ追ってまで殲滅する必要はない。ここへは人知れず地上へと降りるための場所を確保しに来ただけであって、魔物を殲滅しに来た訳ではないのだから。
 人間界への義理というモノもない。勝手な解釈かもしれないが、ボクはボクを排斥した者達に手を貸すほどお人好しではないのだから。
 それに人間界に居た時は兄さんの目から見ているだけだったから、家族と同じで、物語を読んでいた様な感覚があるだけだ。なので、知識はあっても思い入れは無いに等しい。
 今回の事だって、そんな中に在って気になった相手と、借りを作っていた相手にその借りを返しにきただけの話。気になったといっても、存在を覚えていたという方が正しいのかもしれないが。思い起こしてみても、やはり思い入れはそこまで無い。
 まるで記憶だけ継承して他人になった様な気分だが、あながち間違いでもないか。
 とりあえず人知れず着陸が終わり、周辺の安全も確保出来た。一息ついたところで、一度ジャニュ姉さんの居場所を再確認してみる。

「上空から確認した位置から動いていないな」

 ほんの十数分前に確認したばかりではあるが、それだけあれば結構色々と動き回れるからな。とはいえ、現在は魔物との戦闘中であるようなので、動く事はなかったようだが。
 ジャニュ姉さんが居る場所には、そこそこの人数が居るようだ。数十人ぐらいだろうが、視ただけで数えるのが億劫になるぐらいには集まっている。
 内包している魔力量を視ただけではあるが、ジャニュ姉さんの周辺に居る人間は、人間界でも結構強い方ではないだろうか。もしかしたらクロック王国の精鋭達なのかな? ジャニュ姉さんの指揮下だとしたら、そうであってもおかしくはないだろう。
 そんな一団が戦っている魔物達は、中級の魔物達。ジャニュ姉さん達であれば問題なく対処出来る相手ではあるが、問題は数が異様に多い事か。

「えっと、ジャニュ姉さん達が戦っている魔物と、その周辺から駆けつけている魔物を足すと・・・・・・数えるのが面倒だな」

 動いている相手なうえに、ジャニュ姉さん達が魔物を倒しているので減ってもいる。それに加えて各方面から追加がきているので、正直数える気も起きない。
 おそらく現在の総数で三桁は越えているだろうが、それも何となくだ。実際は四桁ぐらい居るかもしれない・・・いや、流石にそれはないか。倒した数まで入れるなら届くかもしれないが。
 ジャニュ姉さん達がいつからあそこで戦っているのかは知らないが、既に全体的に結構疲弊しているように思う。少なくとも、現在戦っているのは半分程度なので、もう数時間もしない内に全滅しそうだ。ジャニュ姉さんだけはまだ余裕がありそうだが、あの数の前には飲み込まれてしまいそうだな。流石のジャニュ姉さんでも中級の魔物を広域殲滅するような魔法は使えないか、使えても一二発が限度だろう。
 まぁ、そんな事はどうでもいいが。とりあえず会いに行ってみるかな。折角ここまで来たのだから、話をするだけしてみよう。
 少し距離は在るが、場所が判っているのでのんびりと進む。襲ってくる魔物は返り討ちにするが、通行の邪魔をしない限りは、こちらからわざわざ倒すつもりはない。
 それにしても、こうもうじゃうじゃと密集していると一つの生き物のようにも見える。それでいて個別に動いている様は少し気持ち悪いが。
 でもまぁ、魔物は人間ぐらいの大きさも多いし、それ以上も珍しくはないので、うじゃうじゃと密集していてもその程度で済んでいるのでよかった。もう少し気味悪かったら問答無用で消し去っていたかもしれない。
 魔物も最初は襲ってきていたが、学習したのかそれも次第に減っていく。それでも全体に伝わるのは流石に無理だったのか、奥に進めばまた襲撃が増えていく。
 そうして進みながら、通行の邪魔をしている魔物も消し去る。途中からたまに横に避けて道を開ける魔物が現れた時はちょっと驚いたが、魔物にも知性はある。それもここに居るのは中級以上の魔物が多いのだから、直ぐにそれぐらいの事が出来てもおかしくはないかと思い直した。
 普段から最上級やその近辺の魔物と接してはいるが、そちらは眼前の魔物程度とでは最早別物だからな。あちらを基準に考えてはいけない。
 進行方向の魔物を殲滅しつつ進むと、もう少し先に戦っているジャニュ姉さん達を発見する。まだ肉眼では姿を確認出来ないが、魔法の光や、飛ばされながら消えていく魔物の姿は視認出来た。
 もう少しで到着だと思いながらも変わらぬ歩みで進むと、数分くらいでようやっとジャニュ姉さん達が戦っている場所に到着した。
 魔物を排除しながら近づいてくるボクの姿を視認した兵士の何人かが訝しげにこちらを見ながら警戒しているが、それもそうか。魔物の群れを草をかき分けながら進むが如く普通に近づいてきた人間が居れば、それは流石に怪しすぎるもんな。まあそれも、ジャニュ姉さんに会えれば解決しそうだが。えっと、ジャニュ姉さんが戦っているのは・・・もう少し先か。

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