第33話:怒られた
授業が終わった‥‥‥次は
「はぁ~‥‥‥嫌だなぁ~あいつに会うの‥‥‥」
でも行かないとなぁ~。行かなかったら父さんから怒られそうだし‥‥‥怒られたことなんて一度もないけど。俺に記憶がなかったら一度や二度は怒られているだろう、多分。
俺は憂鬱な気分で庭に向かった。しかし庭に着いてあいつに会った瞬間、そんな気分は吹き飛んだ。
「その‥‥‥昨日は悪かったな」
そう言ってあいつは俺に向かって頭を下げた。え?‥‥‥なんなんだよ、これは‥‥‥。
話の内容から察するに『昨日=俺が凹むまで貶したこと、すまなかった=謝っている』、つまり『昨日、俺が凹むまで貶したことを謝りたい』ということになる。
謝られてもなぁ~‥‥‥俺、若干トラウマなんだけど‥‥‥。俺も子供じゃないし、許したいのは山々なんだが‥‥‥あそこまで怒った手前、簡単に許せないんだよな‥‥‥。
どうしよう‥‥‥。
「許さない、か‥‥‥そうだよな。坊主の気持ちを考えずに貶したもんな‥‥‥許せるはずないよな」
俺が言いあぐねていたら勝手に自己完結しやがった‥‥‥ここまで落ち込んでいるのを見ると罪悪感が‥‥‥。
「そういうわけじゃ‥‥‥いいよ、許すよ」
俺は半ばヤケクソになりながら『許す』と言った。
「すまねぇ。恩に着るぜ」
「いいよ‥‥‥別に」
あーもう!!この湿った空気、苦手!!はい、この話は終わり!!
「さて‥‥‥昨日で坊主には筋力がないことが分かった。それで腕立て伏せをさせて筋力をつけさせようとしたがそれも失敗。だから
え‥‥‥?ただ貶したわけじゃなくて作戦だったのか‥‥‥。どうしよう‥‥‥一方的に悪いと決めつけちゃった‥‥‥。
すでに終わった話だから気にしないでおこう。
ーーも失敗した。そこで『腕立て伏せ』とは違うもう一つの筋力トレーニング『腹筋運動』をやってもらう」
『腕立て伏せ』じゃなくて『腹筋』をやるのか‥‥‥前にやった時は腕立てより楽だったなぁ~。
「そこの地面に仰向ーー背中を下にして寝転んでみろ」
俺は地面に仰向けになり膝を曲げた状態で待機した。
「膝を曲げろーーと言いたいが、既にできているな。次に俺が足を押さえるから身体の力を使って起き上がる。この動作をそうだなぁーー10、いや15回繰り返せ」
15回‥‥‥15回、かぁ~。前より5回多いな。まあ、なんとかなるだろ。
「始めていいぞ」
俺は腹筋をし始めた。しかし、予想に反して一回もできなかった。
足はしっかりとガードされ全く動かすこともできず、手も使わずに起き上がるーーただこの動作が辛く苦しい。
あまりにもできないからかバークスが「手を使ってもいい」と言った。
俺は素直に言われた通り、手を使って腹筋を続けた。
「いーーーちー‥‥‥にーーーぃーー
手を使ってもいいーーそれでも、足をガードされているせいで起き上がれない。
ーーじゅうーーよーーん‥‥‥じゅうーごぉーーー!!‥‥‥はぁはぁはぁはぁ‥‥‥」
15回、たったの15回の腹筋を終えた俺は何も考える暇がないほどに疲れ果てた。ちょっと、やす‥‥‥ゆか、ひんやり‥‥‥。
「!?ゲホッゲホッ‥‥‥マズッ!!うえ、ペッペッ」
少し眠ろうとしたらいきなり口の中に苦味が広がった。あまりの苦さに眠気が吹っ飛び、飛び起きた。
そして口の中から苦味を逃がそうと口を開けたら口から液体が出た。
ゲロじゃないよ‥‥‥多分。色が赤だから‥‥‥。
「おう、起きたか。どうだ、マズいだろ(笑)」
何が起きたかさっぱりわからないくてキョトンとしている俺を見てバークスが笑った。
「何すんだよ!!」
何がなんだからわからないけど、絶対に悪いことだ。こいつ‥‥‥全く懲りてないな。本当に一発殴ってやろうか‥‥‥。
「何をしたって?そりゃーこの『気付け薬』、別名『気付け薬なのに不味すぎて逆に気絶する薬』を飲ませたんだよ。まあ、突然こんなもんを飲まされたお前の気持ちもわかる。だからこうする」
そういってバークスは『気付け薬』とやらを
「あ、倒れた」
案の定、バークスは大丈夫ではなく口から薬を吐きながら倒れた。これ、どうしよう‥‥‥仕返しついでに気付け薬を飲ませよう。
俺はバークスの身体中を見渡した。わざわざ気付け薬を取りに家に戻るとは思えない‥‥‥きっと身体中の何処かに鞄でも持っているのだろう。
そして腰辺りを見渡した時、ローズ先生と同じようなポーチを見つけた。いや、少し違うな。こっちの鞄の方がポーチっぽい。
じゃあ、ローズ先生のはポーチではなく
「さて、鞄を開けるか。それにしても‥‥‥何だろう、このドキドキ感は‥‥‥人の鞄を
俺は意を決して鞄を開けた。鞄の中身は何だろうという期待も抱きながら。しかし、鞄の中身は何も
何でないんだろう‥‥‥何もないなら鞄なんて持ってなくてもーー何かがあるから持っているんだ。俺は何処かに隠しボタンか隠れポケットがあると思い鞄の中を弄った。すると、俺の指が鞄の中に
「ああああああああああああああ!!!!‥‥‥俺の、俺のゆびがああああああーー
咄嗟にこれ以上指が消えないようにと、手を鞄の中から引き抜いた。
ーーああああああ?あれ?指が‥‥‥ある!?え、どういうこと?」
引き抜いた手を横目で見ると確かにそこには指があった。なくなったはずにもかかわらず、だ。
俺もう一度、鞄の中に手を入れることにした。だけど、やっぱり指が消えるかもしれないと思うと怖い。そのため、さっきバークスが飲んでいた気付け薬の瓶を入れることにした。
瓶の上の方を持ってゆっくりと鞄の中に入れていく。ある一定のところに来ると瓶の下の方が消えた。消えたら上にあげて取り出す。
この動作を繰り返したところ、物は鞄の中に消えるが無くなる訳ではないことがわかった。
「さあ、瓶は地面に置いて今度は俺の指を入れよう‥‥‥ドキドキしてきた‥‥‥深呼吸しよう。スーハースーハー。よし、落ち着いた」
「入れよう‥‥‥」
俺は意を決して指を鞄の中に突っ込んだ。突っ込んだ俺の指は鞄の底にぶつかるーーことなく通り抜けた。通り抜けた先は外の気温とは違って暑くもなければ寒くもなく、暖かくなければ涼しくもない。
まるで
おっと、忘れそうになったな。この中に手を入れたのは気付け薬を取り出すためだったな。
俺は手を動かして『気付け薬』を探った。適当に手を動かしていると『コツンッ』と何かが俺の手に当たった。実際は『コツンッ』という音を立ててなくて当たった感触があっただけだけど。
俺は手に当たったものを掴もうと手を裏返して物を掴んだ。物を掴んだ感触を感じた俺は鞄の中から手を引き抜いた。
引き抜いた俺の手には何かが握られていた。それは『緑色の液体』。色からして『気付け薬』とは別物だな。地面に置いておこう。
次だ次。
俺はまた気付け薬探しをした。『手に物が当たればそれを掴んで引き抜く』
ーー何回、この作業を繰り返したことか‥‥‥気付けば俺の地面の周りには緑色と青色の液体が入った瓶で埋め尽くされていた。出ない‥‥‥肝心の赤色の気付け薬が‥‥‥。
流石に探すのに飽きた頃、やっとの思いで気付け薬を見つけた。赤色‥‥‥よし、これだな!
「ほれ飲めよ‥‥‥嫌がらせの仕返しだ」
俺は
液体の5分の1を飲ませた頃、バークスがゲホゲホと口から液体を吐きながら起きた。
「おゲホッゲホッ、まえな‥‥‥寝ているにんゲホッげんにのまゲホッせる、な‥‥‥」
「ん?何ですか?」
全く聞き取れない‥‥‥ゲホゲホとしか。
「ちょっゲホッゲホッ‥‥‥まてーーよし、落ち着いた‥‥‥。まず、お前にすごく苦い『気付け薬』を飲ませたのは謝る。が、お前が俺にしたことは最悪、俺が
「あと‥‥‥人のものを勝手に漁るのも犯罪だ。今回は大目に見るが‥‥‥二度とするなよ」
「はーい‥‥‥」
仕返ししたら怒られた‥‥‥理不尽だ。
「あといい機会だから教えてやる。この『緑色の水』は『
ゴーン、ゴゥンゴゥン。
「っと、12刻か。今日の訓練はこれで終わりだ。ほとんど何もしてないけどな」
そうだね。二人とも気絶しただけだな。