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「そうかも知れない。
だけど、それは……
忘れたとは違うんだ」
「……わかんないよ。
私、わかんないよ」
「信じて……
僕は、君のことを忘れたりなんかしない」
そう、もうひとりいるんだ。
君のことを忘れない人が……
「そう、瞳だってお前の事を忘れてなんかいないぞ」
「嘘だ……」
「本当だよ。
この間、拗ねていたんだよ?
『愛、ばっかりに優しくしてずるい』って……」
「本当に?」
「ああ、瞳は、ああ見えて焼きもちやきなところがあるからね」
愛は、何も答えない。
そして、しばらくの沈黙の後……
愛は、小さく笑ってこう言った。
「あの木の向こうに行けば、帰れるよ」
「ありがとう」
愛は首を横に振った。