第40話 和やかな再会
◆◇◆
エリーちゃんが何故かため息を吐いてたけど、目の前のお客様を待たせるのはいけないから持ってたクロワッサンを差し出した。
「? これは?」
「お腹を空かせ過ぎてしまうと体に良くないんですよ。サービスですから、遠慮なく召し上がってください」
「え⁉︎」
「い、いいん、ですか?」
「はい、店長は私ですから」
「「あ、ありがとうございます!」」
王女様のメイリーちゃんじゃ手が届かないから、二個とも王子様が受け取ってくれました。
念のために包んだ紙の部分をしっかり持って、二人とも大口を開けずにちまっとクロワッサンにかじりつく。
「「お、美味しい⁉︎」」
行儀作法は良くても、やっぱり子供だから二口目はばくばくと本能のまま食べ進めていく。
朝ご飯は食べてきただろうに、よっぽどお腹が空いてたみたいで、パン屑を口元につけながらぱくぱく食べてくれました。
その間に、エリーちゃんとドーナツの方は作ることにした。
(うちのクロワッサンは、『空腹を満たす効果』があるしね)
ドーナツまでの繋ぎのためもあったけど、かなりお腹を空かせてたからいいと思ったんだ。
実際、食べ終えた二人はほっぺのパン屑に気づかずに、お腹が落ち着いたのか服の上からさすっていた。
「じゃあ、揚げますね?」
生地を入れた時に、油の爆ぜる音に二人は慎重に鍋に近づいてきた。
その顔は期待に満ち溢れてて、どんなものが出てくるのか楽しみって感じ。僕も小さい頃はお母さんやおばあちゃんの服の裾を掴んでは、覗かせてもらったことがある。
おじいちゃんやお父さんの方は、やけど以上に危険な怪我をしちゃう器具や機械が多いから出来なかった。
そんな僕が、こんな若い歳で店を切り盛りする日が来るなんて思わなかったけど。
「チョコはいつでもいいよ」
「ありがと。じゃ、引き上げますねー?」
「「わぁ!」」
まだチョコをつけてないのにこのはしゃぎ様。
よっぽど実演販売が珍しいみたいだ。
(いやまあ、いくら
エリーちゃんも王様達に会ったことがなかったみたいだから、普段はもっとお忍びで来てたかもしれない。
とは言っても、お客様は平等にとおじいちゃんに教え込まれてきたから、ゆっくり丁寧にドーナツを仕上げた。
渡す前に、メイリーちゃんがお兄ちゃんの顔にパン屑がついてるのに気づき、それはメイリーちゃんもだったから二人で順番に顔を拭いていました。実に微笑ましい光景です。
「はい、どうぞ。熱くはないと思いますが気をつけていください」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとう……ございます!」
王子様は二つともメイリーちゃんに持たせて、ポシェットのようなバックから大きな財布を取り出した。
俗に言うチートアイテムボックス!と驚いたが、顔には出さないように頑張った。
「あー、カイトお兄ちゃん⁉︎」
代金をもらう直前に、割り込んできた女の子の声。
全員でそっちを見れば、おめかししてるのにダッシュしながらジュディちゃんがやってきた。
「早いねー! もう来たの⁉︎」
「あ、ああ、おはよう、ジュディ……」
元気いっぱい、笑顔全開のジュディちゃんはいつも通りなんだけど、なんで王子様と知り合い?以上に親しいんだろう?
疑問に思ってると、エリーちゃんがこっそり耳打ちしてくれました。
「ヨゼフさんが元王室教師って言ってたでしょ? そのお陰で陛下方とは付き合いが長いから、家族ぐるみで仲が良いんだよ」
「なるほど……」
疑問が一気に解けました。
「ジュディ、走らないでって言ったでしょ!」
「お、お姉ちゃん、待って……」
「あ、ママ!」
ジュディちゃんはカミールさん達と一緒だったみたい。でも、王子様のカイト君?が見えたから嬉しくて来ちゃったわけか。
カミールさんとユフィ君が到着してから、ジュディちゃんは軽く叱られちゃいました。
「もう、知ってる人がいるからって走り出さないの。今日はおめかししてるんだから、汚しちゃ大変でしょう?」
「……はーい」
「わかったらいいわ。さて、お久しぶりねお二人とも」
「「お、お久しぶりですっ」」
王子様と王女様だってわかってても、今は庶民を装ってるからか近所のお母さんのように接している。
カイト君達も挨拶をすれば、えらいえらいって髪を撫でてあげてた。もしかしたら、いつもこんな感じなのかも。
「あら、メイリーちゃんは美味しそうなのを持ってるのね?」
「ど、ドーナツ、みたいです」
「旦那さんが言ってたあれね? スバルちゃん、うちの子達にもいただけるかしら?」
「やったー!」
「ドーナツっ」
「かしこまりました」
「あ、そうだった。お金お金」
中断してたお会計を再開したけど、カイト君が取り出したのは大きな金貨一枚。
どう考えたって、払い過ぎなので正規の値段分をいただき残りはお返ししました。
「そ、そんなに安くていいんですか⁉︎」
「ちゃんと値段分はいただきましたよ? うちはぼったくりじゃありませんし、安心してください」
「け、けど……」
「じゃあ、カイト君。おばさんと一緒にお店の中を回りましょう? お母さん達にお土産を買うつもりでもあったんでしょう? お小遣いで買える分を選べば、このお姉さんも喜んでくれるわ」
カミールさんナイスアイデア!
カイト君はお顔をきょとんとさせて、僕と財布を交互に見た。
「それでいいんですか?」
「価値を知る事はもちろん大事だけど、見誤っちゃダメ。それが必ずしも喜ばれるとは限らないわ。だから、違う方法でするのよ」
「は、はい!」
「じゃあ、行きましょうか。ジュディはユフィとお姉さんのとこで待ってる?」
「うん、ドーナツ出来るの見てる!」
「ぼ、僕も……」
「わ、私は、行きますっ」
メイリーちゃんはずっと持ってたドーナツをお兄ちゃんに片方渡し、二人で美味しそうに食べてからカミールさんに連れられて店内に入っていく。
「あたしも行くよ。中の会計は、さすがに無理だし」
「そだねー」
「ジュディ達は良い子してるよ!」
「それは頼もしいな?」
なので、ここからは分担作業となり、僕は一人で揚げドーナツを仕上げていく。
「カイトお兄ちゃんとメイリーちゃんはとっても良い子なんだよー!」
「幼馴染み?」
「あんまり会えないけどね?……実は、王子様と王女様なの」
こそっと教えてくれたジュディちゃんの言葉に、ユフィ君もこくこくと頷いた。
だから、僕も秘密にするって指を口元に持っていった。
「カイトお兄ちゃんはねー? ジュディよりちょっと大きいんだけど、もう剣のお稽古とかしてるんだって!」
「め、メイリーちゃん、はダンス習ってるって」
それぞれちょっとほっぺを赤くしながら教えてくれました。
身分差はともかく、好きなんだなぁとなんだかほんわかな気分になっちゃう。恋愛はしたことないけど、人を好きになるのは良いことって思ってるからね。
と、ここで、チョコが固まってきたので紙に包んで渡してあげた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
「あ、ありがと……」
「色々教えてもらったからサービス」
「ダメ! お小遣いちゃんともらったから出すよ!」
「そ、そうなの?」
「は、はい」
ユフィ君と一緒に出してきた銅貨に、甘えたな子達でも成長してるんだなぁと苦笑いするしかない。
きちんと受け取ってから、さあ食べるぞと二人が口を開けたら、
「お、スバル! もう始めてんのか?」
「ジェフ?、と」
「お、おはよう、ございます……」
冒険者装備じゃない、普段着の中でも綺麗な服を着たシェリーさんとジェフが二人でやって来ました。