バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第41話 誤解を解くのに





 ★・ジェフ視点・★





 スバルの店に行く数時間前、俺は何故かクラウスに恰好をいじられまくった。

「なんで二人で行かせんだよ⁉︎」
「こうでもしないと、お前とシェリーが一緒に行動しないからだ」
「依頼は二人でもあんだろ⁉︎」
「わかってて言わせる気か? プライベートじゃ、一切ってくらいないじゃないか」
「そ、それはっ⁉︎」

 たしかに、クラウスが言う通り、シェリーと二人だけで行動する機会は少ない。
 だいたいはアクアやケインも混じるか全員で行動するのが多いせいで、二人っきりがほとんどなかった。

(それをいきなり、デートに持ち込ませるかこいつ⁉︎)

 シェリーの方も、風邪は全快してアクアにいじられてるっぽい。ケインは寝込んでるレイスの見張りらしいが、大丈夫かあいつは……。

「言うのを決めたにしても、関係の修復はしてこい。見た目じゃわからんだろうが、お前がスバルと関わるようになってから少し違ってきただろ?」
「あいつとはダチだって!」
「俺も理由と彼の事情を聞いたからわかってるだけだ。知らないシェリーの気持ちにもなれ」

 ほら、とベストのボタンを止められてから部屋を追い出されちまった!

「スバルの事言えってか⁉︎」
「シェリーも吹聴する奴じゃないだろう? 誤解を解くのも兼ねて彼の店に行くといい。スバルなら、きっとわかってくれる」

 じゃ、と言ってクラウスは扉を閉めてしまう始末。

「強引過ぎんだろ⁉︎」

 叫んでも返事がない。
 これは、時間潰しするよかさっさと行けって言うことか……。

(たしかに、若干気まずくさせたのは俺だが……)

 スバルと話し合って以降、クエスト以外はなんとなく避けられている。
 会話はしなくもないし、熱を出した時も俺に買い出しのリクエストをするくらいだったが、一番に頼ってくるとかが減ってきた。
 それを祭りとデートでうまく消化しろと言われてどうすれば?
 女との付き合い方がそんな得意じゃない俺に出来るんだろうか。しかも、惚れてる相手に。

「あ、あの、ジェフ!」

 背後からそのシェリーに呼ばれ、肩が少しだけ跳ねちまった!

「お、おう。俺も今クラウスに追い出さ……れっ」

 振り返りながら答えたが、目に飛び込んできたシェリーの恰好に度肝を突かれた。

(か、可愛い……っ⁉︎)

 選んだのはアクアだろうが、夏服でも透け感はなく女子らしい服装。髪はいつもならストレートが多いのにハーフアップ?と言うのをしてて、細い項がはっきりしてる。
 慣れない恰好が恥ずかしいのか、目尻や耳が赤い。
 可愛い、可愛い過ぎるっ!
 まだ彼女じゃないが、手に入れたいと決め込むくらいの可愛さだった。

「え、えっと……お、お祭りって聞いたけど、ジェフとい、行って来いって……」
「……俺も言われたぜ。んで、この恰好」
「そ、そ、そうなんだ?…………かっこいいよ」
「サンキュー。んじゃ、行こうぜ」

 兎にも角にも、行くしかない。
 スバルの性別とか、シェリーが抱えてる不安とかを解消させるには、今回の祭りで楽しむのだ第一。
 そう意気込んで二人で宿舎の外に出たが、通りはいつも以上、いや、祭りだから大混雑してた。

「こりゃ普通に歩けれんな?」
「そ、そうだね……」

 俺はともかく、ドジっ子で迷子癖が酷いシェリーじゃ、人混みに飲まれてもいつ合流出来るか。
 だったら、取る行動は一つ。

「シェリー、手」
「え、て、手?」

 慌てたがすぐに出してくれたんで、俺は迷わすに自分の手で覆う。
 当然、その行動にシェリーは顔面真っ赤。

「なななな、なんで⁉︎ な、なんで手握るの⁉︎」

 わかってたが、こうも鈍いと逆に可愛いとしか見えない。

「おっ前の迷子癖はヤバいだろ? はぐれて変な奴に絡まれることになったら、シェリー一人で解決出来るか?」
「で、出来ない……」

 素直に言うのは、一度や二度じゃないからだ。
 俺も対処したが、するたんびにはらわたが煮えくりかえった苦い思い出ばかりなくれぇによ。

「だーかーら、予防策だ。いいだろ?」
「う……うん」

 ただ、一つ言い忘れてたのでもう一度振り返る。

「言い忘れてたが……今日の恰好、お前も似合ってるぞ?」
「え、あ、あ、あり……がと」

 口ごもっても、最後に見せてくれた笑顔に俺も笑い返した。
 それが良かったのか、祭りを回ってる間の彼女の雰囲気がいつもと変わりない感じに戻ってきた。
 美味いものを食って、遊戯で遊んで、茶店巡りをしてとデートでも健全過ぎるプラン。ガキの頃はともかく、成人してからこんな健全なデートした記憶がねぇ。
 シェリーは成人し立てでも、以前はどうだったか聞いたことがない。アクアと話してる時も、あれの食欲魔人並みな飯の話以外聞こえた気がしなかった。

「お祭り凄いね! ここって、こんな賑やかになるとこだったんだー!」

 アクア達もだが、クラウスにも祭りの由来とか聞いてない感じか?

「聞いた話だけど、ここが『魔術師の地』らしいぜ? 街の創立記念だから、昨日も入れて三日間もあんだと」
「魔術師の地⁉︎ あ、そっか。アシュレインだったもんね、この街」

 少し驚いてたが、やっぱり魔法使いだから俺よりは知識が多い。街の名前を思い出してすぐに結びつけたようだ。

「あと、今日は国王陛下がいらしてお忍びで街を回ってるそうだ」
「へ、へへ、陛下が⁉︎」
「聞いただけだって。結構広いし会えるかわかんねぇぞ?」
「そ、そうだよね!」

 が、自分で言っておいてなんだが、スバルの店に行くかもってヨゼフさんの言葉を思い出した。

(忘れてたが、行ってあいつに確認しなきゃなぁ……)

 スバルが男だって知らないのは、パーティーじゃアクアとシェリーだけ。
 クラウスが言ってたように、変な誤解は解きたいが無許可でスバルの性別はバラしたくない。最初からそう思ってたが、クラウスは別としてロイズさんに口すっぱく言われたせいもあって言いにくい。
 気まずくなるのはわかってるが、話題に入れることに決めた。

「ただ、スバルの店は今じゃ名物らしいから行かれるかもしれねぇって聞いたな?」
「そ、そう……なんだ」

 予想以上に落ち込ませてしまい、言い直そうとしたが、シェリーは繋いだままの手を少し強く振ってきた。

「パンも美味しいし、あれだけ可愛くて綺麗な店長さんだもん。行かれないわけないよね!」

 明らかに、無理してる笑顔。
 俺のせいだとはわかってても、そんな笑顔は見たくなかった。

「あ、お見舞いのパンいっぱい貰ったから、挨拶兼ねて遊びに行こうよ!」
「シェリー」
「なーに?」

 振り返った彼女の頭に手を置き、出来るだけ優しく撫でた。
 久しぶりのそれに、彼女は少しだけ固まったが拒絶はされてない。本当は抱きしめたいとこだが、それはまだだと我慢して髪型が崩れないように撫でてく。

「あいつとはダチだ。レイスみてぇに面食いとかそんなんじゃねぇよ」
「……とも、だち?」
「あいつが許可出してくれたら話すって。とりあえず、行くか?」

 握った手をしっかり繋いで、シェリーが頷いてから俺達はあいつの店に向かうことにした。






 ★・シェリー視点・★




 最近、パーティーメンバーの行動がよくわからない。
 特に、ジェフ。
 私が加入してからもだけど、ずっとパーティー以外の女の子と距離を縮めて話す機会なんてなかったのに。

(スバルさんのことは悪く言いたくない。だけど、あの人にはジェフも違う)

 レイスを助けてもらった日、何故かクラウスと先に帰された。
 スバルさんと何を話したかは、今日も教えてもらえていない。そのことで、あの日は私の気持ちを知ってるクラウスと帰りながら、少し泣いてしまった。

(だって、ジェフが好きなんだもん……っ)

 パーティーに入る直前はやんわり拒絶はされてたが、正式に加入してからはそう言うのは無くなって、少しずつ話す回数が増えた。
 その話の中で、彼の過去の女性事情について教えてもらったのと、フリーなのを知った時にはもう彼が好きで。
 告白は今も含めてなかなか出来ないが、彼以外にはもうバレている。
 加入してすぐに告白してきたレイスには問い詰められ、アクアとケインはその現場を見られ、クラウスにはあとでバレた。

(ジェフは結構気配り出来る人なのに、一年くらい経ってもバレてないなぁ……)

 気を許してくれてから、ずっとお兄さんのように接してくれてるのは変わらない。
 あの後熱を出して、欲しいものはないかと聞かれて答えたらすぐに買いに行ってくれたりと。
 そんな些細な優しさは、ますます好きになっていくきっかけでしかなかった。

(だから、だけど。なんで今日はデートになるの⁉︎)

 アクアに無理やりおめかしされ、クラウスには行ってこいと言われてジェフとお祭りに。
 そうしたら、あまりの人混みの多さに彼から手を繋ぐように促されて今も繋いでいる。
 嬉しくて、嬉し過ぎて、不安なんて吹き飛んでしまってお祭りを二人で楽しんでしまった。
 だけど、

「ただ、スバルの店は今じゃ名物らしいから行かれるかもしれねぇって聞いたな?」
「そ、そう……なんだ」

 アクアに聞いた、スバルさんを呼び捨てにするくらいに仲良くなってたのは本当みたい。
 嬉しさが急にしぼんで不安がまたぶり返してきたが、すぐに笑顔を装って、思い出したことを口にした。
 でも、ジェフにはバレてて。
 そして何故か、久しぶりに髪を撫でられた。

「あいつとはダチだ。レイスみてぇに面食いとかそんなんじゃねぇよ」
「……とも、だち?」
「あいつが許可出してくれたら話すって。とりあえず、行くか?」

 はっきり言われたそれを、すぐには飲み込めなかった。
 おまけに、繋ぎ直した手の方は指を絡め取られてしまい、理解が追いつかない。
 ジェフは、私をどうしたいんだろうか⁉︎

「お、スバル! もう始めてんのか?」

 引きずられてくように連れてかれ、気がついたらスバルさんの店に着いていた。
 慌てて挨拶したが、彼女は私達を見て目を丸くしてました。

しおり