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童話

 あかいくれよん。

 いちばんめにおきてあかいとまとすらすらとかいた。

 おはよう おはよう。

 次は、誰かな??

 ……この続きが、どうしても、思い出せない。

 なんだったかな。
 あぁ、えっと……

 はぁ、やっぱり思い出せない。

 小さい時、お母さんとよく歌ったのにな……

 お母さんは、僕が3才の時に亡くなった。

 父さんは、お母さんの後を追いかけて自殺した。
 そして、僕は、子供がいない親戚の家に預けられた。

 でも、その家にも子供が出来た。

 僕の義理の弟だ。
 悲しいことに弟が、生まれると同時に僕は居場所を失った。

 いや、最初からなかったのかもしれない。

 居場所なんて、求めたらダメなんだ。

 僕は、空を見上げた。
 空には、雲が流れていた。

 青い空に白い雲。
 ただ、それだけなのに涙が出た。


 僕が、生きていることに意味があるのだろうか??
 答えは、誰にもわからない……

 そう、誰にもわからない……

 生きることが苦しいわけじゃない。
 生きる事が寂しいんだ。

 そう……
 寂しいんだ。

 僕は、お母さんの形見である赤いクレヨンを握り締めた。
 そして、紙にお母さんの絵を書いた。

 8歳の僕が書く絵は下手くそで全然似ていない。
 でも、僕なりに一生懸命書いた。

 すると、その絵からお母さんが出て来た。
 小さなお母さんが、出て来た。

 小さなお母さんは、ニッコリと微笑むと僕の頭を優しくなでた。
 それだけなののことなのに、涙が溢れた。

 寂しかった。
 ずっと一人だった。
 友達もいない。

 だから、ずっと寂しかった。
 だから、いっぱい泣いた。
 うさぎさんよりも目が真っ赤になるくらい泣いた。
 気づけば僕は泣き疲れて、寝てしまったらしい。

 目が覚めるとお母さんは、何処にもいなかった。

 僕は、またお母さんを描くことにした。
 今度は、大きなお母さんを描こうとした。

 家を飛び出し、道路にでた。

 道路に、大きくお母さんの絵を書いた。
 すると、大きなお母さんが出た。

 大きなお母さんは、僕の体を抱き締めてくれた。

 少しクレヨンの匂いがした。

 嬉しかった。

 僕は、いっぱい話した。
 会えなかった5年分の出来事をいっぱい、いっぱい話した。

 お母さんと話しているのに。
 嬉しいはずなのに……

 涙が出た。

 僕は、また泣き疲れて寝てしまった。
 気付いた時、僕は、家にいた。

 そして、おばさんにいっぱい怒られた。
 いっぱい叩かれた。

 痛かった。
 痛いけど……
 我慢した。


 泣けば、おばさんは叩く
 文句を言えば、おばさんは叩く

 だから、僕は、いつもニコニコ笑っていた。
 笑っていれば気味悪がって、それ以上叩かれないから……
 笑っていればそれ以上、痛い思いをしなくて済むから……

 だから、ニコニコ。

 うん。
 笑顔って大事。

 それに、僕にはお母さんがいる……
 僕は、それを考えるだけで、楽しかった。
 ある日僕は、鍵付の部屋に閉じ込められた。

 外で、寝てしまう事が、あまりにも多すぎた……
 だから、おばさんは、僕を部屋に閉じ込めた。

 だけど、僕にはクレヨンがある。

 少し小さくなったあかいクレヨンでお母さんを描いた。
 最近、気付いた事がある……
 このお母さんは、話さない……

 ただ黙って、ニコニコ笑っているだけ。

 それでも僕は、嬉しかった。
 お母さんが、そばにいる……
 それだけで、嬉しかった。

 僕は、小さなお母さんに今日の出来ごとを話した。
 お母さんは、ニコニコと笑って僕の頭を撫でてくれた。
 それだけで嬉しかった。

 でも、僕は、お母さんと話しているとすぐに眠くなる。
 そして、寝ているあいだにお母さんはいなくなる。

 それは、とても寂しいことだ……
 僕は、お母さんにいなくならないようにお願いした。

 お母さんは、困った顔をした後、僕の頭をなでてくれた。
 そして、一言こう言った。

「ごめんね」

 それを聞いた僕は怒った。

 いっぱいわがままを言った。

 久しぶりにお母さんの声を聞けて嬉しいはずなのに、僕は怒ってしまった……
 そして、今度は怒り疲れて眠ってしまった。
 目覚めたらお母さんは、やっぱりいなかった。

 誰も居ない部屋……
 冷たい部屋。

 そこにお母さんは、いなかった。

 謝ろう。

 そう思って、クレヨンを握りしめた。
 そして、僕は気づいた。

 クレヨンが汗で溶けている。
 もういっかいお母さんを描いたらクレヨンが無くなる。

 僕は迷った。
 でも、お母さんを描いた。
 謝りたかった。

 今度は、寝ないぞ!!

 でも、お母さんは、現れなかった。

 何時間待っても現れなかった。

 僕は、気がつくとまた眠ってしまっていた。

 夢を見た。
 お母さんの夢を。
 お母さんと、いっぱい話した。
 夢の中のお母さんは、普通に話をしてくれた。
 そして、最後にやっぱりこう言った。

「ごめん……」

 お母さんは、また謝った。
 でも、僕は、怒らなかった。
 僕も謝った。

「ごめんなさい」

 キチンと言えた。

 目が覚めた時、クレヨンはもうなくなっていた。

 少しだけ強くなろうって思った。

 お母さんは、もういない……

 現実を受け止めなきゃいけないんだ……
 僕は、強くなれるかな?

 僕は、窓から空を見上げた。
 赤い空が、広がって居た。
 少し、お母さんの匂いがした気がした。


 ――おわり

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