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童話

 むかーし。むかし。
 貴方が思っているよりも少し昔。
 とっても美しいけど心のみにくいおきさきがいました。
 彼女の名前は、クイーン・グリムヒルド。
 そんなクイーンには、コンプレックスがありました。
 誰がどう見ても美しいのにまだ足りない。
 まだ足りない……
 まだ足りない!
 今と違って整形技術なんて発達していなかったためお化粧でしか気を紛らわすことしかできませんでした。
 そんなクイーンのかすかな楽しみ。
 それは……

「カガミよカガミ。
 この世で一番醜いのはだれ?」

 クイーンは、「怖くて美しいのは誰?」なんて聞けません。
 嘘でも自分以外の女の名前が出た日には……
 自分が自分でいられなくなる。
 そんな気がしました。
 そんな気持ちを察してかカガミは毎日言います。

「あなたが一番美しいです」

「そうかい」

 でも、クイーンの心は満たされません。

「でも……」

 カガミ言葉を続けます。

「あなたの娘、スノウ・ホワイトも醜いです」

 クイーンは、スノウとどう接していいかわかりませんでした。
 なぜなら、クイーンは、スノウにとっては二度めのお母さん。
 懐くこともなく極端に嫌うわけでもなく。
 一定の距離を取ろうとスノウはクイーンを避けていました。
 クイーンは、スノウを始めてみたときの第一印象は、かわいらいい子でした。
 クイーンと王の間には子どもができませんでした。
 自分に娘がいたのなら……
 可愛い服を着せて一緒に料理を作って……
 そんなささやかな思いもありましたが、スノウはファッションに興味はありません。
 なぜなら、自分が綺麗にならなくても男は嫌というほどよってくるからです。
 地位や名声さえ入れば誰でもいい。
 そう思う男も沢山いるのです。
 料理も自分で作りません。
 なぜなら、自分が料理を作らなくてもお付きのコックが自分より美味しい料理を作ってくれます。
 そんな環境で自分が美味しくない料理を作るなんてバカらしい。
 スノウは、そう思いつつも食べることが大好きなため。
 まるで見た目は白い子豚です。
 雪のような白い豚姫。
 その見た目から、白雪姫と言われていました。
 スノウは、そんな意味を込められているとも知らず。
 その響きだけで白雪姫と呼ばれるのに喜びと快感を得ていました。

 クイーンは、どうしたものかと思い。
 酒場で知り合った猟師にクイーンはスノウを誘拐するように命じました。
 このままではダメになる。
 そう思ったクイーンの作戦は、猟師にスノウを誘拐させ気性が荒いことで有名な森に住む七人の木こりの小人に預けることにしたのです。
 彼らは、醜いものには醜いといい。
 綺麗な人には綺麗という。
 毒舌なものの根は優しく。
 面倒見のいいことでも有名で、彼らのもとで修行をしたとある木こりは鉄の斧を金の斧に変える魔術を手に入れ。
 体重が120キロだった女の子は、栄養バランスとバランスの取れた運動で今は服のモデルをしているそうです。
 減量80キロという目標を達成し、彼女が作る料理をひとくち食べただけでずっとコブに悩んでいたおじいさん。
 そのおじいさんのコブがポロリと取れたそうです。

 クイーンは、スノウに料理とダイエットができるように七人の木こりの小人に頼んだのです。
 七人の木こりの小人は、悩みましたが条件付きで預かることを了承しました。

 そして、外の世界など全く知らないスノウは誘拐されているという恐怖心と戦いながら小人たちとの生活が始まったのです。

 小人たちが山に働いている間。
 スノウは、掃除や洗濯、針仕事・。
 そして料理を見よう見まねでやっていました。
 最初はうまくできませんでしたが、数ヶ月もそれを続ければ……
 嫌でもその技術は身につきました。

 そして、家事は結構体力を使うため。
 次第に白雪姫の名前にふさわしい。
 雪のように白く美しいいお姫さまになりました。

 しかし、そのとき村ではある事件が起きていました。
 村の娘が何人か惨殺されていたのです。
 後に史上最凶の残虐な殺人鬼と恐れられる男。
 その男の名前は、マーク・ブランドン・リード。
 人の体をためらいなく切り落とすことから切り裂きチョッパーとも呼ばれていました。

 危険なことがあるかもしれないため木こりはスノウに注意しました。

「わたしたちが仕事にいっている間、だれも家に入れちゃいけないよ?
 今は物騒な世の中になったからね」

 ところがある日、クイーンがカガミに尋ねたのです。

「カガミよカガミ。
 スノウは今、なにしてる?」

 そう聞くとこう返ってきました。

「スノウは今、切り裂きチョッパーに襲われています」

「はい?」

 クイーンは、思わずカガミに聞き返します。

「スノウは今、ああ。スノウは今……
 チョッパーにこれ以上の話は聞かないほうがいいでしょう」

 クイーンの顔は、真っ青です。
 おばあさんに変装すると慌てて小人の家に向かいました。

 もう無我夢中で窓を叩き割り家の中に入りました。
 するとそこには頭からおびただしいほどの血を流していたスノウが倒れていました。

 クイーンは、物凄い形相になりチョッパーを睨みます。

「ああ。なんだ婆さん。
 俺は年寄りには優しいんだ。
 まだ死にたくないだろう?お・き・さ・き・さ・ま!」

 チョッパーは、クイーンの正体を見破っていました。
 するとクイーンは変装を解きます。
 しかし、その表情はまるで――
 まるで鬼でした。

 すると小人たちが帰ってきました。
 小人たちは、血を流して倒れているスノウを見て驚きました。
 そして、武器を構えチョッパーを捕まえました。

「スノウ!しっかりおし!スノウ!」

 クイーンの顔はもう涙でぐちゃぐちゃでした。

「おかあさま……」

 スノウは、弱々しくクイーンの頬に手を当てます。

「ああ、スノウ。
 どうしてこんなことに……」

 クイーンは、後悔していました。
 自分がここにスノウをやらなければこんなことにならずに済んだのではないかと……

「おかあさま」

 クイーンは、スノウの言葉に優しく言葉を返します。

「なんだい?スノウ」

「どうかどうか自分を責めないでください。
 私は数ヶ月間小人さんたちといてとても楽しかったです。
 最初は怖かったけど小人さんたちは優しくて……
 私の最初のお友だちです」

 クイーンは、思った。
 違う。
 スノウに必要だったのは美しさでも料理の腕でもない。
 大切なのは、一緒にごはんを食べたり遊んだりする友だちだったんだ。

 小人たちもスノウの状態を見て死期がもう来ていることを悟り涙を流すもの、地面を叩くもの、泣き叫ぶもの。
 七人の小人たちはそれぞれ責任を感じていました。

 そして、クイーンはふと思い出しました。
 食べたものの時間を止める不思議なりんごの存在を……
 不老不死の薬と思って、兵にある国から盗ませて手に入れた魔法のりんご。
 でも、それはそのりんごを食べた生命の時間を止めるだけで、老いもしなければ死にもしない。
 だけど心臓も止まり脳の機能も止まる。
 歳を取らないものの今で言う植物状態になる呪いりんごでした。

 クイーンは、すぐにカガミに命令しそのりんごを兵に持ってきてもらいました。

「スノウ、さぁ、最後にお食べ……
 お前の大好きな大好きなりんごだよ」

 クイーンがりんごをスノウの口に運びました。
 スノウは弱々しくひとくち食べました。
 スノウにとってりんごは、産みの親との思い出のひとつでした。
 一緒にピクニックに行ったとき、森で見つけたりんご。
 それを一緒に食べたりんご。
 クイーンがはじめてスノウとあったとき。
 スノウはりんごばかりをかじっていました。
 そのためクイーンはスノウはりんごが好きだと思っていたのです。
 スノウは産みの親との思い出が消えないように……
 りんごをかじりつづけていたのです。

 呪いのりんごを食べたスノウの時間は止まりました。

「おやすみスノウ。
 この呪いが解けるのは数年か数十年かかるかわからない。
 でも、きっと呪いが解ける日がくるから……
 おやすみ、スノウ」

 クイーンは、しずかにしずかにスノウを木こりたちの家のベッドに運びました。

 それからというものクイーンは、毎日毎日城から木こりたちの家に足を運びました。

 一年が過ぎ、二年が過ぎ。
 十年が過ぎ、二十年が過ぎ。
 三十年、四十年の時間が流れ。

 世界一の美女と言われたクイーンは、世界値美しいおばあちゃんと呼ばれるようになるまで時間が過ぎました。
 腰が痛くても足が痛くてもクイーンは、毎日スノウに話かけました。

 優しく優しく話かけました。

 そんなある日。
 ある国の王子さまが、スノウを尋ねに来ました。

「やぁ、お婆さん。
 ここにとても綺麗で美しいお姫さまがいると聞いたんだけど」

「……アンタは!?」

 クイーンは驚きました。
 その王子さまの姿を見てたいそう驚きました。
 なぜならその王子さまは、呪いのりんごの持ち主だったのです。

「もう十分反省したかい?」

 王子さまが、そう言いました。

「ああ、もう盗みなんかしないよ」

 クイーンはそう言いました。

「君が心を入れ替えたのは知っている。
 だから取引に来たんだ」

 王子さまが淡々とした口調でそう言いました。

「君の命を僕にくれるのなら、スノウを元気にしてあげよう」

「こんな婆さんの命なんてどうしようと言うんだい?」

「お婆さんの命には興味はない。
 だけど、魔女の魂には興味があるんだ」

「そうかい。
 深くは考えないよ。
 私の命でこの子が元気になるのならいくらでもあげよう」

 クイーンがそういうと王子さまは言いました。

「じゃ、取引成立ってことでいいかい?」

「ああ」

 クイーンが頷くと王子さまは小さく笑いました。

「じゃ、さよならのキスを最後にしてあげてよ」

 王子さまがそういうとクイーンは小さく微笑むとスノウにキスをしました。

「さようなら、スノウ」

 クイーンのその言葉とともにスノウは目を覚ましました。
 クイーンの姿は、もうどこにもありません。

「あれ?
 わたしはどこにいるのかしら?」

 スノウは、王子さまに尋ねます。

「ここは、木こりさんの家だよ」

「そう……
 おかあさまはどこ?」

「遠い場所にいったよ」

「私、長い長い夢を見た気がする」

「そうだね、おはよう。
 スノウちゃん。
 どんな夢を見たんだい?」

「えっと、えっと。
 あれ?忘れちゃった。
 おかあさまにずっと絵本を読んでもらった気がするの」

「そっか。
 楽しかった?」

「ええ、とても。
 とっても楽しかった。
 楽しかったのにあれ、何故涙があふれるのかしら」

 スノウは小さく泣きました。
 優しい優しい涙を流しました。

「そっか、スノウちゃん。
 僕とくるかい?」

 王子さまがそういってスノウに言いました。
 スノウは一瞬戸惑いました。
 戸惑うスノウに王子さまが言葉を続けます。

「君のおかあさんに、君のことを頼まれたんだ。
 八番目の友だちになって欲しいってね」

「あら?あなたお友だちになってくれるの?」

「うん、ダメかな?」

「私ね、こう見えてお姫さまなの」

「そうだね、女の子はみんなお姫さまさ」

「お掃除もお洗濯もお裁縫もお掃除もするから、友だちになってくださる?」

 スノウの無邪気な笑顔に王子さまは小さくうなずきました。

「そうだね。
 好きなことをして大丈夫だよ」

「そう、ありがとう」

 スノウは嬉しそうに笑いました。
 なにも知らないスノウ。
 そして、すべてを知っている王子さま。
 そんなふたりは、小さな冒険に出ました。
 小さな小さな冒険に……

「ずっとお友だちでいてくれる?」

 スノウの質問に王子さまは微笑みました。

「ああ。ずっと一緒だよ」

 時が流れないスノウと時を支配する王子さま。
 そのふたりの物語は、おわらない。


 -続かない-

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