第五十話
俺は思いっきり混乱していた。
受験、できない? は?
「え、いや、どういうことですかそれ」
「特進クラス
「いや、だったら一般クラスは?」
「それも出来ません。転生者ですから」
笑顔で即答され、俺は顔面をひきつらせた。
え、どういうことだそれ、つまり、え?
意味が分からない。混乱していると、学園長はさらに言い募ってくる。
「転生者がこれまで
「じゃあどうしろって言うんだよ……」
俺は思わず零してしまった。
このまま学園に入学できなかったら、俺の目的はソッコーで頓挫することになる。
冒険者になるには、学園を卒業しなければならず、そして冒険者を養成する学園は王国だとここ一つだ。他国に亡命すれば、他国の学園に入学して冒険者になれるかもしれないが、その場合、この王国での活躍は難しくなる。
基本的に冒険者は学園を卒業した国に所属し、その国で活動することになるからだ。
つまり田舎村の復興をするためには、俺はなんとしてもこの学園へ入学しなければならない。全ては功績をあげて、田舎村を譲り受けるためだ。
俺が
「申し訳ないが……」
学園長は困ったような表情を俺に向ける。
ぐっ、しまった、これはマズった。これじゃあ俺がクレーマーみたいじゃねぇか。いや、実際クレーマーなのかもしれないけどさ。
何にせよ、これは学園側にとっても想定外だってことだからな。っていうか、
俺の周囲は全員レアリティが
っていうか、そもそも転生者がR(レア)だってことが前代未聞らしいし。
ああああ、どうすればいいんだ!?
俺は思わず頭を抱えた。
他にも受験を断られている連中はそこら中にいる。近くでは怒号さえ響いていた。
どうやらこの学園は受験受付するだけでも大変らしい。
「あの」
俺は食い下がるように声をかける。学園長はさらに困ったような表情を見せた。
「本当にどうにかならないんですか? せめて、受験だけでもさせていただけませんか?」
俺は頭を下げた。もしこれでダメなら、大量に金を積むか、それとも脅迫か何かするか? いやでも無理だろうな。金を積んでも断ってきそうだし、脅迫なんてしたらもう絶縁宣言みたいなものだ。
「……何か事情がある、と思っていいのですか?」
俺は黙って頷く。
もし受験を受けさせてもらえれば、俺は実力で突破できる自信がある。
「とはいえ、我々もルールを破るわけには行きません。よって、こうしましょう」
学園長は指を一本立てて来た。
「ただの
「……と、いうと?」
「簡単な話です。限界突破をしてきていただきたい」
限界……突破?
俺は軽く首をひねった。
いや、言われている意味は分かるんだ。分かる。限界突破だろ? ほら、ゲームとかで良くある、レアリティの横に《+》とかがつくアレだろ?
そういえばフィルニーアにもしっかりついていたな。
だが、その手段までは知らない。というか、限界突破の条件は人によって異なるのである。
この厄介な特性のせいで、限界突破を出来る人間はかなり限られてくる。
かくいう俺も何回か挑戦しようと思ったが、どれだけ修行してもドラゴンぶちのめしてもダメだった。
「いや、でも……限界突破って簡単じゃないでしょう」
「ええ。ですから特別措置の価値があるのです」
笑顔で無理難題を言い放ってくる学園長。
しかもやり方が巧妙だ。学園としてのルールを一部捻じ曲げて特別としてやる、と、一見譲歩しているように思える。だがその実、不可能に近いことを押し付けているだけだ。
「特別にヒントを差し上げましょう。王都には、限界突破を見破れる占い師がいると聞きます」
「……何?」
「もしその占い師に鑑定してもらって、限界突破の方法を知り、一段階突破して来れたのであれば、特別に受験資格を与えましょう。ただし」
学園長はギラリと目を光らせた。
「受験の受付時間いっぱいまでとします。ご存知かと思いますが、受験受付は本日のみ。時間は、そうですね。夕方の十八時までです。もうすぐ八時ですから、約一〇時間ですね」
「んなムチャな!」
「ですが、これが我々の出来る譲歩の最大限です。それ以上を望まれても困りますね」
「ぐっ……」
毅然とした態度で言い放たれ、俺は不利を悟る。
特別にヒントを、という更なる譲歩の発言でこっちはますます追い込まれた形だ。
しかし、限界突破、か。
もしそれが出来れば、俺のステータスも上昇するはずだ。
俺の場合、《神獣の使い》というアビリティで基礎値を一〇〇倍にしている。つまり基礎値を上昇させれば俺の能力は跳ね上がるワケだ。
レベルはオーバーフローした上でカンストしていて、レベルアップは望めないしな。
これはもしかしたら奇貨かもしれない。
「……その占い師の情報は?」
「申し訳ないが、私もそれ以上のことは知りません。王都のどこかにいる、とだけ」
「……分かった。やってやる」
俺はそう返事をしていた。
もうこうなったらやるしかないのである。
「だが、俺には付き人のメイって子がいる。その子は
そう言うと、学園長は目を見開いた。
「
「助かる」
「ですが、付き人は付き人。もし主人であるあなたが不合格となれば、入学出来ないので注意してくださいね」
俺はただ頷いた。
転生者にのみ許される付き人は、特別として年齢に関係なく入学できる。ただし、常に主人に寄り添い、サポートすることが条件だ。ちなみに授業も一部を除いて別教室で行われる。
この特性のため、付き人は付き人専用の受験受付が必要で、メイとは離れ離れになっている。大丈夫だとは思うが、護衛としてポチもつけてある。
「じゃあいってくる」
そう言って、俺は踵を返した。
さっと人ごみに紛れ込み、そのまま自分に隠蔽魔法をかける。
さすがに姿を消すまでは出来ないが、限りなく存在感を殺すことは可能だ。そしてそのまま人気のない場所へ移動し、空へ飛んだ。
この異世界で、空を飛ぶというのは相当な高等技術だ。転生者でもおいそれとは出来ないし、俺だって意識をある程度は集中させなければならない。浮遊するだけなら平気だけど。
フィルニーアとハインリッヒは軽々とやってのけているが、二人がおかしいだけである。
俺は高速で空を移動し、王都へと入っていく。
まずは占い師を探すことになったのだが、どこかにいる、としか分からないし、どんな人物なのかもノーヒントである。それを、この一〇万都市である王都で探し出そうと言うのだから無謀としか言えない。
だが、やらなきゃならないならやるだけである。
「さて、と」
俺は王都の中心地――王城近くの上空で急停止した。
ここからはシンキングタイムである。
まず、占い師とはテンセイ術に長けた魔法使いのことを言う。各々方法は違うが、誰かの未来を呼び出して相手に伝えられる能力だ。
未来予知ではなく、あくまで可能性を示唆する程度のものらしいが。
とはいえ、少なからず魔力を持っているはずだ。更に誰かの限界突破の方法を占えるとなれば、かなりのものと思っていいだろう。
ってことは、高い魔力を保有してるヤツを探せばいいか?
それも必要だろうが、まずは占い師がたくさんいるところを探すべきだな。
占い師はその特性から、独特なコミュニティを持っていることが多い。
確かフィルニーアがそんなことを言っていた記憶がある。
だったらまずは聞きこみだな、と、俺は早速大通りへ向けて移動を開始した。