第十七話 神のお導き
「なんなのよあの傲慢な態度は!! これだから神は嫌いなのよ!!」
「落ち着けって!」
あまりにも怒り狂っていて、こっちにも飛び火しそうな勢いだったので、その前にどうにかしてアミラを落ち着かせようとする。
「あいつはそうゆう奴なんだ。あんなくそ女神のことなんて忘れろ!」
「本当クソ女神ね! お前はめんどくさいから早く指輪を取れだなんてふざけるのも大概にして欲しいわ!!」
「そんなことをぬかしやがったのか! ふざけてんな!」
「あームカつく!」
「このめんどくさがり屋のクソ女神め!」
「くたばれ女神!」
とにかく同情作戦は効いたみたいで、しばらく一緒に叫んでやったらちょっとは落ち着いてくれたらしい。
まぁ作戦といっても、俺があいつに抱いてる感情そのものを俺も叫んだだけだが。
「とにかく、その指輪が本当に
「なら良かった。それで、これについての解析の話なんだけど——」
「——もちろん明日からでもすぐにやるわ! あいつに一泡吹かせてやるんだから!!」
「おぉ、それはありがたい。俺のもう一つの指輪を預けてる店にその手の技術者がいるから紹介するよ」
「じゃあ、明日はまずそこに行くわよ!」
「おう」
そんなこんなでうまくアミラの怒りがいい方向に向いてくれたみたいで、女神に一泡吹かせ隊に頼もしい仲間ができた。
「それと、できるだけ時間を作って、魔法についても教えてあげるわ。この7日間で使い物になってもらわないと困るんだからね」
「任せてくれ。イメージトレーニングだけなら軽く1000時間はしてきたと思うから」
「何それ。まぁ明日からの予定も決まったことだし、今夜はそろそろお開きにしましょう。今日は色々あって疲れたわ」
そう言うと、アミラは無意識に大きく開いた口に手を当て、眠そうに目を擦った。
確かに、彼女も散々走り回った挙句に、豪食をして、怒鳴り散らしてとさぞかし疲れただろう。
俺もアミラにつられてあくびをすると、帰ろうと椅子から立ち上がる。
「下まで送って行くわよ」
「あぁ。じゃあお言葉に甘えてお願いする」
そうして部屋を出てみると、先の俺たちの叫び声に心配したのか、あるいは迷惑したのか、他の宿泊者や宿のスタッフが集まってきていたので、俺がアミラの分まできちんと謝ってどうにか許してもらえた。
「じゃあ明日の9時にここにきなさい。馬車があるからその指輪を預けたところまではそれで行くわよ」
「あぁわかった。じゃあ、今日は色々とありがとうな」
「えぇ。また明日ね」
「おう!」
アミラに手を振って、夜の街へと足を踏み出す。
さっき見た時計では11時を回っていたので、やはり外は真っ暗だ。
都会に住み慣れた俺からしたら、申し訳程度に置いてあるここの街灯ではほとんど闇でしかない。
(早く帰ろっと)
そう心の中で呟いて足を進めると、そこで重大な事実に気がついた。
「俺の宿はどこだ」
もう散々走り回ったあとだったので、帰り道などわかるはずもなく、路頭に迷ってしまった。
と言うわけなので、とりあえず、全力で走ってアミラの宿に戻る。
「アミラ!」
「ん? まだ帰ってなかったの?」
部屋に戻ろうとしていたアミラを引き止めて事情を話すと、『宿のロビーへ行って空きの部屋をここで借りたら?』と提案してた。
眠そうにしながらもついて来てくれたアミラと共にロビーへ行くと、先ほど『夜なんだから他人の迷惑も考えてください!』と注意してきたスタッフがいたので頼んでみる。
「——というわけなんで、一部屋借りれませんか?」
「申し訳ないんですけど、今はもう満室で……」
帰ってきたその返事にアミラが、『他の宿に行ったら?』とまたしても提案してくれたが、スタッフいわく、こんな時間に入れる宿はないだろうとのこと。
まぁ確かに、俺たちのさっきの女神罵声騒動がなければこのスタッフさんもいなかったかもしれないしな。
「……じゃあ、しょうがないから私の部屋に泊めてあげるわよ」
「ええ!?!?」
「追加で毛布と枕を頂戴。それと追加料金は明日こいつに払わせるわ」
「かしこまりました」
俺を置いてけぼりにして勝手に話を進めるアミラに割って入って抗議する。
「いや、でもベッド一つしかなかったし、それにその……」
「あんたは床で寝なさいよ! ってあんたと間違いなんて起きるわけないじゃない!!」
俺が何を言わんとしているか察したアミラが顔を火照らして全力否定してきた。
きっぱりと言われると意外に心にくるらしい。先からの言動でわかってはいたが改めて言われると辛いな……
「だってアミラは普通に可愛いし……その、俺が辛いというか……」
「——ば、ばばば、ばっかじゃない!? 何それ!? 私を襲ったりしたら死ぬだけじゃ済ませないわよ!?」
「まさか、そんなことするわけないじゃないか。アミラを襲うなんて……」
想像しただけでも恐ろしい。そのあとに待ち受ける死よりも辛い仕打ちが。
身体強化されたはずの俺ですら全く敵わずにボコボコにしてきたアリアとの痛い思い出が脳裏に蘇って体を震わせていると、下を向いていたアミラの歯をギリギリと食いしばっている姿が目に入った。
「アミラさん……?」
「…………」
「あの〜?」
「このばぁか栄一!!!!」
「ぐはぁあああ!!」
宿中に響き渡るほどの怒声の直後、俺はアミラの魔法によって強化された右ストレートで空を舞った——。