滅亡の真実
とある未来のとある世界。
人々の平均寿命は縮まり、病気の数は増え、殺人事件や傷害事件の数は急増。行方不明者は過去最大を毎年のように更新していた。
俺はジャーナリスト。
科学が発展した「豊かであるはずの時代」、それに相反するように人々の生活は荒んできている。
その異変の根源を探るべく調査を続けているのだ。
政府は一貫して「環境問題」や「出生率低下」「教育の劣化」「警察の機能不全」など、当り障りのない理由を主張している。
「根深い問題だ。だが、我々はこの問題に立ち向かわねばならない」などとそれっぽいことを言っていた。
胡散臭い発言だ。
大学時代の同級生と再会したのはそんな時だ。
今では著名な研究者になっている彼は、あらゆる分野の第一人者として、広い知識と深い考察を携えていた。
「君は真実を知っているんじゃないか?人類が今まさに着実に滅亡へと向かっているその理由を。」
とある公園。俺はその友人とベンチに座っていた。
仮に、今から聞く話が世界の根源を覆すものである場合、他の客がいる喫茶店などは避けたほうが良いと考えたからである。
「理由なら既に政府が言っているだろう。「環境問題」「出生率低下」「教育の劣化・・」
「そんな建前の理由なんて聞きたくはない。何か巨大な悪が、とてつもなく恐ろしいことが、裏側では起きているんじゃないのか?」
「恐ろしいこと?」
「例えば、宇宙人が実は人間に成り代わっていたとか、人工知能が裏で政府を牛耳っているとか。今の時代なら十分にあり得ることだ。いや、むしろそれくらいじゃなきゃ説明できない。」
「・・・なるほど。君はそこまで考えているんだね。」
友人の目が光る。
「ならこの話をしたほうが良いだろう。」
俺は生唾を飲み込む。
ついにこの世の真実が聞けるのだ。
しかし、友人の口から出てきたのは意外な例え話であった。
「人間は、例えば風で草が揺れた時に何者かが近づいてきたんじゃないかと思ってしまう脳の癖があるんだ。夜中、ガラスに反射した月を見て火の玉だと勘違いしたりとかね。」
いったい何の話だ?俺は眉をひそめる。
「それは「実際にその脅威が本物であった時」と「その脅威が偽者であった時」において、「偽者であった時だと思ったほうがリスクが少ない」と脳が解釈しているからだ。」
話の展開が見えてこない。
「草が揺れた時に、「どうせ風の仕業だろう」と油断するよりも「何者かが忍び寄って来るかもしれない」と考えたほうが、実際に「何者かが忍び寄ってきた時」に対応出来る。とでも言うのかな。」
「なるほど。なんとなく分かるような気もするが。」
「どうせ風に決まっている」と脳が決めつけてしまえば、それが「実際の脅威」であった時に命が危険にさらされる。
それよりも、常に最悪の事態を想定し、「なんだ取り越し苦労だったのか」と思った方が、命を守ることができる可能性は高いはずだ。
「要するに、人間は油断よりも杞憂を選ぶと言うことだな?」
「その通り。人は常に「物事に意味を見出そうとする」と言い換えてもいいだろう。天井のシミを見ていると、人の顔のように感じるのもその一例だな。」
「わかる。わかるが・・・それがどうしたんだ?」
「こんな話もある。大統領が死んだ時、必ずと言って良いほどでるのが他国の陰謀論だ。人は大きな出来事が、無意味かつ無目的に起きると信じるのが苦手なんだな。だからこそ、「大統領が車にはねられた。」「その運転手の奥さんが外国の人間だった。」「じゃあ、そいつはその国のスパイじゃないのか。」って具合の話が世間に浮かび上がる。」
そこで俺はこの友人が言わんとしていることが分かり始めてきた。
友人は話を続ける。
「いいか。政府の言っていることは本当にただの「事実」なんだ。」
まっすぐ彼は俺を見る。
「人間が好き勝手に廃棄物を垂れ流したばっかりに環境が汚れ、自己実現、社会進出という言葉とともに結婚年齢が上昇して出生率が低下。過保護によって学校に乗り込む親が増え、教師は人気のない仕事TOP3に入る。当然、教育の質は下がる。」
「そんな・・そんなわけがない!」
俺は主張する。
が、友人は哀れむような声を出すだけだ。
「いいかい?もう今の世の中には、「分かりやすくて親切な課題」なんてのは存在しないんだ。」
そして、友人は立ち去った。
俺はしばらくベンチに座ったまま呆然としている。
改めて公園の中を見渡してみた。
人っ子一人いない。
分別もされずゴミ箱に詰め込まれているゴミ袋。ヘドロで濁った噴水の水。
排気ガスで汚染された真っ黒の空がこの街を覆っている。
どこかに落ちていた空き缶が、風に揺られて俺の足元にぶつかった。