リサ
「ポーゥン・・・」
顔面と胸元に青白い波紋を浮かべながら兵士2人が崩れていく。
彼女達が使う対ジャム弾は殺傷能力が無い、究極のスマートウェポンだ。また、殺傷能力が無いだけではなく、外傷も作らない。人間や動物の中に寄生したジャムだけを消し去るのだ。
突然の出来事と来訪者に驚きが隠せない若い女性が目を見開き上体を起こした。
「こ、こびと?!なの?」
「説明は後!今、私達の仲間が助けに来るわ。合図があるまでまってて!絶対助けるから!」
「モビウスワンから支援要請!要救助者多数!応援を!!」
「アウルアイ、了解した。ガーネット隊を廻すから頑張ってくれ」
「こちらガーネットのジャニス、五分まってて!」
「ジャニス、よろしくね!」
手短かに進入通路を説明すると、先を急ぐふたり。
今のチャイムの射撃音が他の人間たちに聞こえていたら他の人達の救出が困難になる。
段々とお香の様な、まったりとした空気が強くなって行く先にはおぞましい光景が広がっていた。
「な、なに・・・・・これ。」
一面裸体の肌色が転がっている。
肉体の山の真ん中にがっつりとマウントポジションをとり、痣だらけの少女に被さっている歳とった男に狙いを定めた。
・・mum ・mama・・
he,he,he,You'll become a mother
耳に纏わりつく訛りのある英語。
「このケダモノッ!!」
えるのが動く前にベルが銀髪を乱してショットガンを物凄い速さで撃ち込んでいく。
胸に、腹に、そして頭に。
普通、人間がジャムの侵食を受けた時多くて十数匹。
しかし、目の前の全裸の男は数百という無数のジャムに蝕まれている。
雄叫びをあげるその姿はもはや真っ黒な異形、人の形をした悍ましい何かにしか見えなかった。
響き渡るチャイムの射撃音に何事かと若い兵士が近づいてきた。
全弾撃ち込んでしまって即応出来ないベルを庇うようにして
フルオートで撃ち倒していくえるの。
広い部屋の中を甲高い銃声が木霊するのが減衰していくと、
部屋のあちこちですすり泣く声が聞こえてくる。
先ほど、ママ、ママと呼び続けていた女の子の元に駆け寄るえるのにその女の子は弱々しく手を差し出していく。
「あ・・・ああ・・妖精さん。わ、わたしの妖精さん・・」
暴行を受けて無残にも腫れ上がり、目も開けなくなった女の子。
「大丈夫、もう私達が来たから大丈夫よ。あともう少しで応援も来るから頑張って!しっかりして!
「ああ・・妖精さん。もっと顔見せて・・おねがい・・かわいい私の妖精さん・・」
えるのは女の子の手のひらに乗った。そおっと包むように両手で抱えられて座り込んだ女の子の元に近ずいていく。
顔だけじゃない、全身痣だらけで、下半身は大量に下血していた。
ぐちゃぐちゃになったブロンドの髪、そして白い肌が近郊に住むアラブ系の人間でない事を示している。
『ガーネット隊が来れば・・彼女達なら回復系の呪文が使えるはず』
「あ、ああ、ありがとう。私はリサ。妖精さんのお名前はなんていう・・の?」
「はじめまして、リサ。私はえるのよ。」
「えるの、えるのさんね。素敵な名前ね。わたしと友達に・・友達になってくれる?」
「もちろんよ。もう少しで一緒に帰りましょう!」
「ママは?ママはどこなの?」
おそらく、リサの隣で既に息を引き取っているのがリサのママだろう。
ほんの少し手を伸ばせば触れられる距離・・・
「ママは助け出されてる。一緒に帰るわ!一緒にうちに帰りましょう」
えるのは嘘をついた。
「えるの、ありがとう。えるのの、えるのの髪、汚しちゃったかもしれない、ごめんなさい。これ、これ使って・・・」
そういうと辿々しく自分の前髪をとめていた青いリボンを外すとえるのの髪を手櫛でとかしながら縛った。
「こんなものしか無くてごめんね」
「リサ、ちょっと・・」
「リサ!リサ駄目だ!起きて!お願い!!」