夜明け前
7月某日、北アフリカ、シリア。
満月の夜空を飛行する数羽の真っ白なフクロウ。
そしてその背後に無数の小さな人影がいることに誰も気づかなかった。
渡り鳥の様に編隊を組んではいるが先頭を飛ぶフクロウ以外の姿はもともと空を飛ぶ姿とは言えない。
ちっちゃなメイド服を着た人影が空を飛んでいる。
中にはメイド服じゃないのも混じってはいるけれども。
「こちら、アウルアイ。まもなく目標の勢力圏内に入る。目的は説明してある通り、収容されている女性、子供達の解放を優先して安全な場所まで誘導する。そして可能な限りジャムを叩いてISの人間共を正気にさせてくれ。」
「その声はビスマルクさん?!」
と、羊の着ぐるみを着たりぷーが反応した。
ビスマルクとは、えるの達が一人前の掃除の妖精として学んだ妖精協会での教官でもあり上司でもあった。
羊の皮を被ったりぷー。
コミカルな格好に見えるがれっきとした妖精用の重装スーツ姿。ジャムから発せられる思念波を跳ね返し、着ている者の力を数十倍に増幅する。そしてプクプクとした衣装の中に、ヒツジスーツ専用チャームである強大なミニガンの弾を蓄えているのだ。
チャームとは妖精工廠が開発した対JAM用の武器一般を指す。
C.H.a.Rm・・・チャーム。
殆どが人間界の火器にインスパイアされているので見慣れた武器が多い。
「そうだ。今回は私が上空からサポートしているからな。りぷーにはミーティング通りえるの達のサポートを頼んだぞ!」
「はいっ!ビスマルクさん来てるんだったら百人力です!!」
「ビスマルクさん、お願いがあります」
「どうしたんだ、えるの?」
「作戦中のコールサインを変更させてください。新しいコールサインはメビウスワンに。」
えるのは主人がよく遊んでいて、その中で使っていたテレビゲームのコールサインを使いたいと言いだしたのだ。
ただ、勘違いしているのはこのコールサイン、主人が付けた固有のコールサインじゃない。つまり、このゲームで遊ぶ全プレーヤーがメビウスワンなんだけども。
「えるの、わかった。これから君のコールサインはメビウスワンだ。」
「今日は私の誕生日だ。作戦の成功と無事な帰還をプレゼントしてくれ」
「メビウスワン、了解。」
「メビウスツー、了承しました」と、りぷー。
「メビウススリー、了解です」と後ろからライフルバッグ背負いながら飛ぶ、べるが答える。
「やれやれ、こんな大規模な作戦は久しぶりだわ。」
フクロウ達の群れが散開する様に散り始めた。
その中の一群、ビスマルク率いる小隊が大きく左に旋回し進路を変える。
目標ーー収容所として使われている教会の廃墟。
一行は静かに高度を下げて、眼下に広がる漆黒の大地へと消えて行った。