強襲
「ああ、隊長達今頃色々とおたのしみなんだろうなぁ」
鹵獲された旧ソ連製の戦車の中に入る男が呟いた。歳は二十歳を過ぎたばかりだろうか、東洋人っぽい顔付きの中に少し幼さも残る顔が包まれた白い布の中から見せる。
「夜明けになればこの鉄の棺の中からオサラバだ。俺は一昨日連れてきたブロンドの子がいい!」
「ああ、あの子堪らないな。先週の母娘も良かった。」
「そう言えば、C中隊の奴が天使を見たらしい」
「マリファナかシャブやり過ぎたジャンキーじゃないのか?」
イスラム国の兵士の中では戦闘時の恐怖心を払拭するために覚醒剤な向精神薬を乱用する者も少なくない。
「俺の天使はもうす・・」
そう言いかけると若い兵士は呻き声を漏らしながら海老反り、崩れた。
「エッサン!」
そう言いかけた男も突っ伏した。
月光を背に急降下する小さな影ー
手に持つライフルのハンドガードに取り付けられた照準器に武骨なシルエットが名一杯入ると水面に投げ込まれた石つぶての様に無数の淡い波紋広がってゆく。
ピーーンッと言う鈴の様な音色が闇夜を切り裂いた。
えるのの持つ対ジャム用のアサルトライフルに取り付けられたグレネードランチャーの咆哮。
慣れた手つきでカートリッジを排出させると次のカートリッジを装填し二両の戦車に叩き込んだ。
「やっぱりトップアタックでも戦車相手じゃ無理あるか。りぷー、お願い!」
「はいよ!」
そう答えると超低空で進入してきた白いモコモコから発射煙。
リーィィィィという爆音と共に砂埃に包まれた戦車は青白い光に包まれた。
ひつじスーツを纏ったりぷーが持つチャイムと呼ばれる専用武器は30mmのガトリング砲。6本の砲身が回転しながら毎分8,000発の対ジャム弾を撃ち出していく。
強力すぎる反動で一瞬身体が静止して見える。またひつじスーツ無しで取り扱うのは無理な武器だ。
基本、チャイムと呼ばれる彼女達の武器は命を奪う類のものではない。とり憑かれた人間の体は傷付けず取り憑いたジャムだけを倒していく。
ただ、身体からジャムが抜けたり消失する時に衝撃が走るのでジャムの量や強さで一時的に行動不能になったり意識を失ったりする事が多いのだ。
「お姉ちゃん、やったよ!」
りぷーはそう言いながらまた上空に駆け上がって行く。
「メビウスツー、東側からお客さんだ。銀色のワンボックス、丁重にお迎えしてくれ」
「ガッテン、承知!」
ビスマルクのかけ声に軽く返事をして飛び去るりぷーを見送りながら、
「あの子ったら・・・おじいちゃんか何かと勘違いしてなきゃいいけど。」
そう呟くと廃墟となった教会の窓際に降り立った。
「行こう、待っている人がいる。」