入れ替わった親子
私は警察官。そして今職務質問をしている最中だ。
そんなことを言うと途端に顔をしかめる人間も多い。
なんだ警察ってのは。権力を盾に偉そうに振る舞いやがって。
ちょっと様子がおかしいだけで、すぐに職務質問。すぐに連行。挙句にプライベートな事まで根掘り葉掘り聞いて謝罪の一つもしやしない。
こっちが何でもかんでも素直に言う事を聞くと思ってたら大間違いだ。
そう言いたい気持ちも分かる。
だが私の目の前にいる二人には、声をかけずにはいられなかった。
一人は、おそらく40歳を超えている中年の男。タバコを吸いながら学生服に学校指摘のカバン。そして野球帽をかぶっている。
もう片方はまだ少年だ。中学生くらいだろう。しかしながら背広を着て七三分け。髪をびっしりと固めていた。
見た目と容姿がバラバラなのだ。
さすがこれはどういうことか、と事情を聞いているのである。
「あなたたちは一体なのですか?」
すると背広を着た中学生が、話し始める。
「私たちは親子なのです。」
非常に落ち着いた、深みのある喋り方であった。
「ある日、私たち二人が洗面台の鏡の前に立った時、白い光に包まれて気づけばお互いの中身が入れ替わっていました。その後、色々と試行錯誤を繰り返したものの二人の中身はどうやら戻りそうもない。」
嘘を言っている様子はない。
「そのため、学校と会社に事情を説明し、このような生活をしているわけです。」
学生服の中年男を見ると、少しふてくされたように小さく頷く。その様子は確かに中学生のそれにも見えた。
「そうですか・・。なんとも奇妙な事ですな。」
とりあえず納得するしかない。真実は確かめようもない事だ。
「ええ、あいにく私と息子は性格も嗜好品も何から何までが正反対。窮屈でしょうがない。」
七三分けの中学生がため息をついた。
「1日も早く元の生活に戻れるよう祈っています。」
二人は会釈をすると私の前から立ち去っていった。
彼らを見送りながら、
私は、何か大切な事を見落としているような気分になる。
「あ!」
私がそう言った時、二人の姿は既に見えなくなっていた。