息子の背中
高校野球の試合。
俺は球場の外野スタンドに座っている。エースピッチャーであるせがれの試合を見に来ているのだ。
舞台は9回裏。バッターは向こうの4番。野球のことは良く分からないが、どうやらサヨナラ負けのピンチらしい。
俺は休日に仕事が入ることも多く、実は試合を見に来たのはこれが初めてだったのだ。
来る前は「単なる球遊び」だと侮っていたが、実際にくるとその真剣な眼差し、白熱したエネルギーに圧倒されてしまった。
それに加え、まだまだ子供だと思っていた自分の息子が、立派にピッチャーを務め上げているのを見ると、やはりこみ上げてくるものがある。
堂々としていた。タイムをとって、周りにチームメイトがマウンドに集まっている。その一人一人に息子は優しく話しかけていた。
その背中は大きく余裕に満ちていて、絶体絶命だというのに自信に満ちた顔をしている。
「あぁ、これはきっと勝つはずだ。」
俺は意味もなく確信した。
それから5年が経った。息子は大学進学と共に上京している。
東京の一人暮らしというと、やはり不安ではあった。だが、結局はそれを許せたのは、やはりあの試合がきっかっけだろう。
マウンドでの立派な背中の息子を見て「こいつなら大丈夫だ」と思えたのは大きい。
あの時、偶然にも俺の目の前に飛び込んできたボールは今でも家に飾ってある。
「やめてくれよ」と息子は言うが、俺にとっては大事な思い出の品だ。