シミュレーションゲーム
35歳。暗い部屋。引きこもり。社会人失格。ニート。
自分を言い表す絶望したくなるような言葉たち。
それを打ち消すように。俺はゲームのスイッチを入れる。
買ってきたばかりの恋愛シミュレーションゲームだ。
「おはよう、俺くん。」
天使のような笑顔をした女子高生が俺に笑いかける。
うん。かわいいヒロインだ。やっぱりキャラクターが魅力的であってこそ感情移入できるもんだからな。
するとテレビ画面には選択肢が出てきた。
①あ、忘れ物・・・
②学校まで一緒に行こうか
③おはよう!
迷わず2番目を選択する。
「うん!嬉しい!」
ヒロインが頬が赤く染まる。
どうやら好感度が上がったようだぞ。まぁ、この手のゲームに関して言えば俺はちょっとしたマスターだからな。
コンコン
その時、部屋の音がノックされる。母親だ。時計を見ると昼の12時。
そうか、もうそろそろ昼飯か。
廊下を歩く足音が消え去ると俺はドアを開いた。お盆の上に俺の分の食事が置かれている。
オムライス。おお!俺の好物だ!たまには気が効くじゃないか。
飯をかきこみながら再びゲーム画面へと視線を移す。
「じゃあ今日も勉強頑張ろうね」
投稿イベントが終わりゲームの中の彼女が笑った。うん何だか今日は気分が良いぞ。
コンコン
食事を取りに来た母親が俺の部屋をノックした。扉の向こうから、か細い声が聞こえる。
「無理に学校に戻る必要はないからさ。通信教育でも受けてみない?」
俺のご機嫌を伺うだけの情けない声だ?
・・・はぁ?なんだそれ。
くだらない提案に俺は忽ちやる気をなくしてしまう。
立ち上がると、扉をドンと叩く。拒否の意思表示。
全く、俺には俺のペースってもんがあるんだからさ。
つくづく俺の心のオアシスはゲームだけだ。テレビの前に座り直し、次のイベントを進めていく。
放課後のイベント。早速あの子をデートに誘ってみよう。
「ごめん。今日は他の用事があるんだよね。」
好感度が下がったことを告げるBGMが鳴る。何だ?何がいけなかったんだ?
思い通りにいかないゲーム展開に、次第に俺はイライラしてくる。
コンコン
また母親の声だ。
「ねえ、今から晩御飯のお買い物に行くだけど何か欲しいものある?」
うるさい。
「お父さんが、良かったら皆ですき焼きなんてどうだろうって言っているんだけど。」
うるさいうるさい。
「もちろん嫌なら良いのよ。お父さんにはお母さんから言ってあげるか・・・ね?」
「うっっっっせえええええよおお!!!!!」
俺はありったけの声で叫ぶと扉を思いっきり蹴りつけた。
「あー。ゲームオーバーだ。」
僕はゲームの前でため息をつく。遊んでいるのは最新のシミュレーションゲーム。
母親に成りきって、引きこもりの子供を更生させるという変わった内容だ。
どんな言葉で、どのタイミングで話しかけるのか?を選択し、見事自分の子供を部屋から出すことができたらクリア。
斬新なのが、ゲームのこの息子自身が恋愛シミュレーションゲームをしているため、その恋愛ゲームの展開によって上下する気持ちを読み解きながら、どんな言葉をかけるのかを選ぶという点。
さらには母親自らがハッカーとなり、ゲームのヒロインに息子が外に出るよう説得させるシナリオもあるのだから面白い。
「今日はここまでにしておこうか。」
ゲームは1日1時間。僕は電源を切る。ちょうどそのタミングで、僕を呼ぶ母さんの声をが聞こえた。
「ごはんよー。おりてきなさーい。」
「はーい。」
元気の良い返事をして、僕は自分の部屋から出ていく。