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実際に父さんの仕事場を見たことはない。しかし、確かあれば小学生の頃だったかと思う。
父と二人でどこかに出かけた時の帰り。ガラの悪い若者たちが父に絡んできた。
薄暗い路地で当たりには誰もいなかった。
「おっさん。ちょっと金貸してくれよ。」
お決まりの文句を言いながら3人組の若者は父を睨みつける。父はそれを微糖だにせず見返すと穏やかに頷いた。
「いいでしょう。今は手持ちがありません。コンビニまでご同行願えますか?」
その従順な姿に若者たちは拍子抜けしたように笑っていた。
「ヘタレオヤジ、まじウケる」
一人の男がそう言っていた。
若者に着いていく前に父は、僕を見てこう言った。
「一真、ここにいなさい。」
そしてすぐそばの路地を曲がると僕の視界から消えた。
僕はその場でガクガクと震えていたが、何とかしないとという気持ちがあったんだと思う。
恐る恐るその角を曲がって父を追いかけようとした。
そこには父が立っていた。
一人で。
「待たせたね、一真。」
何てことはない様子で眼鏡を拭いている。服には汚れ一つ見当たらない。
さっきの人たちは?キョロキョロしていた僕は地面を見てハッとした。
精肉店でよく見る生肉のようなものが、大量に転がっているのである。
ただ店頭のものよりもずいぶん汚く、真っ赤に染まり、形は崩れ、繊維があちこちに絡んでいた。
「と、父さん。これって・・・?」
「さぁ、帰るよ。」
父は優しく僕の手を取ると、自宅へ向かって歩き出した。