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「一真さんは、自分が進みたい道を進めば良いのよ。」
食事の席。母さんが口を開いた。おっとした喋り方は上品で、いつでも優雅に微笑んでいる。
僕はそれ以外の表情を見たことがない。
しかしそれが何とも言えず恐ろしい。
そう。どんな時も、母は絶対に笑っているのだ。
彼女のエピソードで思い出に残っているのは、やはり「オレオレ詐欺」の件であろう。
僕が高校に上がりたての頃だ。
僕の名前を語り「事故にあったから至急お金を振り込んで欲しい。」という電話がうちにあった。
通常なら執事の磯山が取るのだが、その日はたまたま買い物に出かけており、代わりに電話を受けたのが母さんだ。
人を疑うことを知らない彼女はあっさりと数百万円という金を振り込んでしまった。
その後、当然ながら僕が普通に帰宅したことにより、この一件が詐欺であったことが発覚したのだが、その時の父の言葉が妙に思い出に残っている。
「あぁ、かわいそうに。」
これは母に対してではない。
犯人に対してだ。
父から聞くところによると、母は七原家の情報網をフルに駆使することで犯人の居場所を突き止め、監禁したらしい。
「本当に私の息子なら私の質問に答えられるはずよね?」
彼女は笑顔のまま犯人の爪にペンチをあてた。
「息子の名前は?」「好きな食べ物は?」「誕生日は?」
母からの質問に間違えるたびに爪を剥がされ、すべての爪が剥がされた後は、歯を抜かれ、最後は四肢を順番に切断されたと言う。
「ごろじてください。」
オレオレ詐欺の犯人は、最後には母に懇願するように言っていたそうだ。
「えぇ。もちろん殺すわ。でも、「残機7」法案を忘れないでね?あなたはまた復活するのよ。」
そしてとどめを刺し、息絶えた死体に向かって最後にこう語りかけた。
「すぐに続きをやりましょう。まだ聞きたい質問はたくさんあるんだから。」
もう一度言う。
彼女はこれらの行為を全て、笑顔でおこなっていたのだ。