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「坊ちゃん?」
その声で僕はベットから飛び上がった。
どうやら学校から帰ってきて寝てしまったらしい。ふかふかの真っ白なベット。その上で僕は目がさめた。
「大丈夫ですか?ひどくうなされていましたが。」
隣にいる執事の磯山が心配そうに僕の顔を覗き込む。能面のような綺麗な顔の女性。高校生のようにも見えるし、30代にも見える。
滅多に表情を変えることがない不思議な人だ。
「うん。大丈夫。」
僕は礼を言うと体を持ち上げた。近くに置いてある携帯を開くと雪菜からメールが入っていた。
「体調悪そうだったけど大丈夫?明日またいつもの場所でねっ!」
彼女との関係が壊れていないことに安堵の溜息をついた。
「坊ちゃん。夕食の準備できています。」
磯山は気づけば部屋の外から僕を呼んでいる。
背筋をピンと伸ばし、お腹の前で手を組んでいた。
僕は部屋を出ると1階へと降りていく。
僕、七原一真は端的に言って金持ちの息子なんだと思う。広々とした庭にお城のような一軒家。
近所でも七原家を知らない人はまずいない。
でも、僕はそれを自慢したことはなかった。といよりも誇りに思っていない。
なぜなら七原家は殺し屋一家だから。
もちろん表向きは人材会社を経営していることになっているが、依頼に応じて人を殺すことによってのみ僕らの家は生計を立てている。
「一真。」
夕食の席に座った僕に父さんが話しかけてくる。真っ白な縦長のテーブル。
そこに僕と向かい合う形で父と母が座っていた。
テーブルの上には磯山の作った豪華な食事が並んでいる。
「なに?」
僕はスープに口をつけながら僕は答える。
「進路はどうする?何か決めたりはしたかい?」
「まだ迷っているんだよね。」
「そうか。」
父さんは小さく頷いた。身長は165センチ程度。肩幅も狭い小柄な体型である。
分厚い眼鏡をかけ頭皮は薄い。どこにでもいるサラリーマンのように見えだろう。
しかし、彼こそが七原家の現役当主であり、最も有能な殺し屋ということになる。