ネガティブな奴ら
都心にある研究室でのこと。
レフト博士が新聞の社会欄を見ながら顔をしかめた。
「最近はマイナス思考の人間が増えているみたいだな。」
その発言に、助手のライト助手はお茶を淹れながら答える。
「ええ。新型のうつ病だなんて言われているようですよ。世の中の全てが嫌になって、後ろ向きなことばかり考えてしまうとか。あれもダメ、これもダメ。世界はもう終りだとわめいているようです。」
ライト助手はレフト博士の前に熱いお茶を置いた。
「ストレス社会が生み出した闇、というところか。」
何でもかんでも心の病だな、お茶に口をつけながらレフト博士はため息をつく。
「本当ですね。なにやら怪しい宗教団体まで出来始めているようで。」
「宗教団体?」
「ええ。そういう心を病んだ人々を集めて、悪いのは社会だ、今の政治を変えるべきだ、と洗脳まがいのことをしているようですよ。」
「なんとも迷惑な話だ。」
その時、研究所に隣接する道路が騒がしくなり始めた。
何やら声高に演説を始めたものがいるらしい。ワゴン車の上に取り付けられたお立ち台に乗り、拡声器片手に男が叫んでいる。
「目を覚まそう!」
「地球を救おう!
「今こそ未来の子孫のために!』
スピーカーによって何倍にも拡声された音が街全体に響き渡った。
その周りに何十人もの人間がいて、そうだ!そうだ!と騒いでいる。人々の頭にはハチマキが巻まれており、その中にはプラカードを持った人間もいる。
「噂をすれば。こいつらですよ。さっき言っていた宗教団体っていうのは。」
窓の外を見下ろしながらライト助手が言う。
「ほう。」
レフト博士もライト助手の横に立ち、路上にてパフォーマンスさながらに声を張り上げている人物を見た。
男が何かを言うたびに群衆は盛り上がり、異様な熱気が見て取れた。
「何だ立派な大人じゃないか。こんな子供みたいなやり方をして。飽きれて物も言えん。」
「ほんとそうですね。」
ライト助手は失笑する。
スピーカーからの声は尚も続いている。
「皆さん!!地球は本当に、本当に危険な状態なのです!大気は汚染され、どれだけ快晴の日であっても空は排気ガスで真っ黒だ。植物はこの地球のどこにも咲かなくなってしまった。野生動物は完全に死滅したそうです。毎年のように平均気温が上昇し、今や気温40度,50度は当たり前。海の水位が減る見込みはありません。これが人類の危機ではなく何だというのでしょうか?」
「みなさん。どうか!どうか!目を覚ましてください!!」
その発言を聞きながらレフト博士は笑っている。
「何を言っているんでしょうね。そう簡単に人類が滅ぶわけがないのに。」
ライト助手が肩をすくめた。
「本当にそうだな。全くなんてネガティブな奴らだ。」