第205話 せめてもの救いというもの
「そうだ!私は商売人ですから。この前……東和政府から租界を出るための居住許可が出たんですよ」
租界から東都に渡るには多種多様な事務手続きが必要だった。かなめもその手続きに2~3年の時間がかかることを知っていた。我慢していた涙腺の疼きを笑顔が凌駕したおかげで少しばかり安心しながら頷いた。
「それで、実はここの部隊の艦がある多賀港の隣の市に先に移住手続きを済ませた弟夫婦がいましてね。店舗の建物だけ有るんだがって話が来てまして……」
「お店、移るんですね」
ようやく救われたような話を聞いたかなめは溜まった涙を素早くふき取った。
「ええ、多賀港の隣の新港ですから。確か……司法局実働部隊の運用艦は多賀港を母港にしていましたよね?」
老人もようやくさっぱりとした表情でかなめに笑いかけて来た。かなめもまたそんな老人を見てようやく落ち込んだ気持ちから救われる気がした。
「じゃあ食べに行っても良いですよね」
「もちろんですよ!それにそちらの技術者さん達が多賀港にもいるそうじゃないですか?なんでも大変な釣り好きだとか。私も釣りは好きでしてね。できればご一緒なんてできればなあと思っています」
笑顔の老人が言葉を飲み込んだのは、ドアが突然開き、驚きの表情を浮かべていたかなめの目に、誠やカウラ、アメリアまでもが嬉しそうな表情で飛び込んできたからだった。
「おい、説明しろ。どうしてここにお前等が乱入して来るんだ?」
「せっかくなじみの美味しいうどん屋があの辺境で釣り師化することのない場所にできるってのに……かなめちゃんだけがなんて……ねえ」
アメリアはそう言ってかなめに笑いかけた。
アメリアとカウラの言葉にかなめの言葉が詰まった。そんなかなめ達のやり取りを老人は笑顔で見つめていた。