湖の騎士・ランスロット卿
円卓の騎士のなかでも特に強く、最も誉れ高き最高の騎士と呼ばれた男がいた。
彼の名はランスロット。
剣や槍を扱う高い実力はもちろん、騎士に相応しい勇敢さや礼節、忠誠心を持ち合わせていて、アーサー王やその臣下たちからの人望が厚かった。
さらに
「見て! ランスロット様よ!」
「ほんとだわ! なんて綺麗なお方、お近づきになれたらどんなにいいことか……!」
「失礼、ご婦人方。……おいランスロット卿! 早く来い! お前がいなければ宴は始まらんぞ!」
「おうガウェイン卿! 今行く」
彼はフランスのベンウィックを治めていたバン王の子だが、両親を早くに亡くし、〈湖の乙女〉ヴィヴィアンによって育てられたことから〈湖の騎士〉と呼ばれている。
そんな彼は、重大な問題を抱えていた。
それは、アーサー王の妃グィネヴィアへの淡い恋心である。
彼が18歳でキャメロットの宮廷入りを果たした時、彼を騎士として叙任した彼女に一目惚れしたのだ。
しかしランスロットはアーサー王に忠誠を誓った身であり、王からも信頼されている。
王妃に手出しをすることは許されない。
だが高潔な人柄ゆえか、一度恋したグィネヴィアを諦めて別の女性を愛することができなかった。
その最たる例の話をしよう。
その少女を捕らえていたのは、モーガン・ル・フェイだった。
アヴァロンの妖精がただの人間の少女を捕らえたのは、ランスロットを誘き寄せるためだった。
「ランスロット、お前がこの者を愛すというのならば解放しよう」
「生憎、俺には――」
「グィネヴィアのことか? 人妻を愛し続ければ、いずれ報いを受ける。私はそんなお前を見たくないのだ」
「それでも! 俺は誓ったんだ、あの方への想いを背負って生きることが、俺への罰だと!」
その時はモーガンの術を打ち破り、少女を連れて脱出することに成功したが、やはりモーガンの発言が気がかりだったのか、しばらくグィネヴィアにはよそよそしくなった。
宮廷風恋愛の代名詞たるランスロットとグィネヴィア。
その想いや覚悟を利用されるとも知らずに、悩んでいた時期のことである――。