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第158話 抹殺されかけた末に

「そしてこの方が片桐芳子医学博士。こちらの方は大脳生理学が専門でしたが、遼州系の脳波の一部に特殊な作用がある。つまり法術を展開することが理論的に可能になると言う現象から法術研究に入った、いわば王道ともいえる研究履歴のある人です。主に干渉空間の展開が脳にどのような影響を及ぼすかと言うところから研究を出発させて、その過程で不死人の研究も並行的に行うようになったんです。まさに今回の容疑者の研究テーマとしてはぴったりの人ですね」 

 目つきは明らかにカメラをにらみつけているようにも見えたが、その目鼻立ちのはっきりした美女と呼べる姿を誠が見つめていると隣のアメリアが足を思い切り踏みしめてきた。

「うっ……痛!何するんですか!アメリアさん!」 

 誠の口から漏れた悲鳴にかなめはざまあみろと言う表情を浮かべる。それを一瞥した後、ひよこは話を続けた。

「当然、東和軍なんかの研究者もこう言う経歴の持ち主にはかん口令を敷くわけですが、三年前にとある女性誌の働く女性を紹介すると言うような記事で、口が滑ったと言うか法術の存在をほのめかすような発言をしてそれが政府の逆鱗に触れたんです。法術に関しては研究内容はあくまで公表する際は医療目的とするのが当時のルールですから、『ヒーリング能力』以外の法術は存在しないと言うのが当時の政府の見解だったんです。それを破って遼州人に見られる特徴について抽象的に表現しちゃったのが当局に目をつけられたきっかけです」 

 ひよこはいつもと違い、専門用語を駆使して説明してくるので、誠は少し混乱していた。

「よくいるわね。口の災いで自爆する人。なんだかこの人の顔を見てるとその典型みたいに見えるわね。私も気を付けましょう」

 アメリアは自分自身に言い聞かせるように笑いながらそう言った。 

「アメリア。オメエは鏡を見る必要がありそうだな。オメエが一番口で自爆してるじゃねえか」

「それを言うならかなめちゃんだって結構口で人の地雷を踏んでるわよ」

「なんだ!なんかアタシに文句あんのか?表に出ろ!」

「二人とも静かに!」 

 カウラの一言にアメリアはとぼけたように誠やかなめに目をやる。そして全員が大きく頷いているのを見て舌を出しておどけて見せた。

「それからは常に監視をつけられていたと言う話を聞いていますよ。事実その発言から一度も学会に論文を発表していない。事実上干されたわけです。研究自体もほとんどしていないで最近は大学の非常勤講師として勤務しているようです。非常勤ですから厚生局から声を掛けられれば一番最初に飛びつきそうですし、お金のことを考えてもやはり非常勤講師なんてたかが知れてますから……かなり怪しいところですね」 

 ひよこは一度あくびをした後、再びキーボードを叩き始めた。一同はその一挙手一投足に注目していた。

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