第131話 隠し事のできない仲間達
「何を言うのよ!馬鹿!」
サラの平手が島田の頬を襲う。だが、島田は避けることなくそれを受け止めた。
「お前、それが怖くてアタシ等を避けてたのか?」
「くだらないな」
「いいじゃないのそんなこと。今更法術師の一人や二人増えたくらいで驚く私達とでも思ってたの?馬鹿にしてくれたわね」
かなめ、カウラ、アメリア。それぞれに一言で島田の神妙な顔に応えた。見上げる島田の目に涙が光っていた。
「それならお父様も嫌われなきゃいけないわね。あの人もそれまで封印されていた使用可能なほとんどの力はアメリカ軍の実験で失われている。死なないだけの存在って言うならお父様もかなりその状態に近いわ」
茜はそう言って微笑んで見せた。
「でも本部では嫌われてるな。まあ、あれは不死であろうが死ぬ人間であろうが関係なくあんな生活と態度を取ってれば本部の人間だって嫌みの一つも言いたくなるってものだ」
「カウラ。それは言わない約束だろ?」
茜に声をかけるカウラの言葉が変な方向に向かっているのをかなめがたしなめると言ういつもには無い奇妙な光景がそこに展開された。そこにはいつもの彼女達の平静な態度が戻ってきていた。
死ぬことも、年をとることも出来ない不完全な生き物。それは嵯峨が自虐的に自分を評するための言葉だと思っていたが、誠に一番近い先輩と言う立場の島田がそんな存在だと分かると誠の頬に自然と笑みが浮かんで来た。
「なんだよ皆さん妙に冷静じゃないですか。知ってたんですか?俺が死なないってこと知ってて黙ってたんですか?」
島田は涙声でそう言いながら立ち上がった。
「そう言うお前も神妙な顔での告白の割には冷静じゃないか。あのさっきの画像を見てた表情。今にも泣き出すんじゃないかと心配したぞ。ただ、貴様のタフさは異常だとは思ってはいた。一週間も寝なかったらたとえ戦闘用人造人間の私でも体がもたない。それを貴様は疲れたの一言で済ませてしまう。異常な体質の持主だと言う認識はあった」
カウラの言葉にかなめもアメリアも大きく頷いた。それを見て茜は安心したように再び端末の画像に視線を移した。次々に干渉空間を破砕しては暴れまわる肉の塊とそれを防ぐ東都警察の法術師の死闘が続いていた。
「東都警察が法術対策部隊と言う切り札を切るだろうということもたぶんこの化け物を作った人達も予想していたと考えるべきですわね。でも、この程度は対法術兵器で排除されてしまう。このテロを企んだ人間は何がしたかったんでしょう?」
誠もその茜の言葉の意味が分かっていた。嵯峨の情報網にすら引っかからない巧妙な秘匿技術を持った特殊な研究開発組織。それがこれほどの派手なところで現れるにはそれなりの理由があることはすぐに分かった。
「動くだろうな、この事件のきっかけを作った奴が。この化け物が厚生局の違法研究の成果だとすれば、それに対抗する、いいや、それを上回る法術研究の成果と言うものを持った奴が」
そんなかなめの言葉で画面に目を戻すと、機動隊の正面でぼこぼこと再生を繰り返していた肉の塊が半分に千切れた。
「こちらが本命か!」
そう言ってランは見切ったように端末に目をやった。そして誠も彼女の考えを理解したいと思って画面に目を向けた。