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第130話 身近にいた不死人

 同盟本部ビルの周りに設置されたカメラからの多数の映像が茜の取り出した端末の上の空間に表示され、その中央にもはや人間であった面影すらない肉の塊が衝撃波で路上のパトカーを吹き飛ばしている様をみて立ち上がり、走り去ろうとする姿があった。

「馬鹿野郎!今更行って何とかなるのかよ!」 

 本来ならば自分が飛び出すタイプのかなめがライダースーツの島田にしがみついた。黙ってふてくされたような顔をして止めに入るサラに島田は感情を殺したような視線を向けた。

「どうしたのよ正人!カラオケボックスに居た時からそう!らしくないわよ!」 

 サラがそう言って出て行こうとする島田の手を握った。いつもならムードメーカーとして笑い飛ばすような調子の島田の変調に場は彼を中心に回り始めた。

「ああ、アメリアさん……ナイフ持ってますよね?神前でもいいわ。二人ともプラモを作るからニッパーとか刃物系のもの、持ち歩いてますよね?」 

 唐突に島田はそう言うと真剣な表情でアメリアを見つめた。

「腹でも切るのか?ここは甲武じゃねえし、オメエはサムライじゃねえんだから」 

 笑えない冗談を言うかなめに島田は力の無い笑みを浮かべた。通信端末の画面の中では空中に滞空して肉の塊と化した法術師の成れの果てと戦っている東和警察法術機動部隊の映像が映っていた。しかし、編成されたばかりの東和警察の法術師達の部隊で太刀打ちできる相手ではないことは誰の目にも明らかに見えた。

「東都警察もやってるんだがね。法術師の空中行動ってのは結構な技量が必要なんだが……所詮はそこまでしかできねーってことか。アタシ等を外して全部自分達にまかせてくれって見栄を張ったがいいがこりゃあ役に立つようなレベルの法術師じゃねえぞ」 

 ランの言葉にしばらくかなめに押さえつけられていた島田が気がついたように映像に目をやった。

「落ち着いたか」 

 羽交い絞めにしていたかなめが力を緩めたので島田はどさりと床に倒れこんだ。

「おい、下手なことに使うんじゃないわよ」 

 そんな島田にアメリアはポーチから出した小型ナイフを渡した。島田は情けない顔でアメリアを見つめた。

「馬鹿なことを」 

 かなめが口を開くよりも早く島田は手袋を外した。

「何する気だ?」 

「まあ、見ていてくださいよ」 

 カウラの言葉にそう答えると島田はそのまま手首をかざしてそれにナイフを突き刺した。

「自殺か!自殺志願者か……?」 

 そんなかなめの声は手首にナイフを突き刺しても一切血が流れないという状況で沈黙に変わった。

「やっぱりこんな小さいと分かりにくいですよね」 

 島田の顔が痛みにゆがんでいた。手首を切り裂いたはずのカッターナイフの刃には血の跡すらなく、切り裂かれたはずの手首には何の痕跡も残っていなかった。

「やっぱりお前も『不死人』なのか……だから先ほどの隊長が不死人だって言った時に変な態度を取ったのか」 

 カウラの言葉に島田が頷いた。そしてようやく納得が行ったように頷いたかなめが静かに島田の肩を叩いた。場は一瞬にして島田の笑顔で静まり返った。『不死人』と呼ばれる不老不死の存在。誠も存在は知っていた特殊な能力者。宇宙空間に放り出されても蒸発と再生を繰り返しながら生命を維持することが可能とまで言われる不死身の存在。島田がそんな存在として誠達の前にいた。

「とりあえず分かった。でもなあ、一人で突っ走るのはやめてくれよな」 

 そう言うとかなめナイフを島田から奪い取った。その視線がようやく島田のおかしな態度に得心したと言うように一度つま先から頭の先まで彼を眺めて見せた。

「お前が言うと説得力があるな、西園寺。暴走は貴様の十八番(おはこ)だものな」 

 突っ込むカウラを無視してかなめは茜の端末の画面に映している機動隊と化け物の戦いに目を向けた。

「こんな化け物。その同類が部隊にいるなんて気持ちが悪いでしょ?隊長やクバルカ中佐みたいに力が有って何かしらの根拠があれば納得してもらえるでしょうけど。俺には力が無いんです。神前の野郎みたいに剣を出したり、ひよこちゃんみたいに人を治したりできるわけでもない。ただ死なないだけ。ただけがの治りがやたら早いだけ。気持ち悪いでしょ?そんな存在」 

 島田の言葉が震えていた。誠は周りを見回した。だがそこに居る誰にも島田への恐怖などは感じられなかった。そして、誠自身も島田が恐れているような心の変化はまるで起きていないことに気付いた。

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