第124話 絶対不敗の男達
「まあいい。たった二機のシュツルム・パンツァーと寄せ集めの甲武国本国からの援軍。友軍は数だけでは遼北軍に負けるもんじゃないが弱兵で知られた遼帝国軍だ。勝負は見えていたはずだが、遼北軍はこれを攻めあぐねた。次々と戦線を離脱する遼帝国軍。いくら落としても湧いて出る敵の遼北人民解放軍。手持ちの兵は銃の撃ち方を習ったばかりのド素人の集まりばかり。それでも後退しながら甲武遼帝国派遣軍の戦線は崩壊しなかった。遼北軍だって、当時は宇宙の戦い終結しつつあったから主力は本国に戻っていたはずだ。そんな雑魚部隊なんぞ一瞬で片付けられたはずだ」
かなめは嵯峨とその部下達が行った奇跡にも近い戦線維持の戦いについて語った。
「そんなに奇跡的なものだったんですか?確かに戦力比を考えると勝ち目がないのは分かるんですけど……でもどうやってその戦いを生き延びたんです?」
話を聞いていた誠が手を挙げて質問した。
「まあ巧みなゲリラ戦法を使って、一つの過ちもなく任務を遂行できる戦力があれば無理な話じゃねーがな。つまりだ」
かなめの言葉を引き継いだランはニヤリと笑う。
「あのうどん屋の亭主の部下達にはそれが可能だってことだ。千倍の敵とぶつかっても平気で戦い続けることが出来る精神力と技量を持った最強の兵士達。通称『屍者の兵団』とも呼ばれることもある。地球圏のあの大将を追ってる連中は『特殊な部隊』でなく、『屍者の兵団』の通称であの大将達を呼んでいる。まあ、手柄を上げた時、『特殊な部隊』のメンバーを射殺したよりは『屍者の兵団』のメンバーを射殺したと言った方が恰好がつくからな」
小さな子供にしか見えないランだが。その言葉には凄味があった。誠達は彼女の姿に息を飲んだ。
「でもまあ、戦争の大局を左右するほどの意味がある戦いだったかどうかは知れたもんじゃねえがな。遼帝国は軍を率いていたガルシア・ゴンザレス将軍が、敗戦の責任をすべて無能な皇帝、霊帝に押し付けてこれを追放した。哀れ、四百年の歴史を誇る遼帝国は滅亡し、地球軍、特に主力のアメリカ軍が遼南地方を占拠した。進退窮まった甲武遼帝国派遣軍は当時アメリカ軍が血眼になって追っかけてた戦争犯罪人、嵯峨惟基の投降の混乱に紛れて四散して逃げ延びたわけだ。あの大将、叔父貴には恩があると言ってたろ?あの大将達が逃げる時間を稼ぐために叔父貴はわざとアメリカ軍に捕まったんだ。そして全責任を負って銃殺された」
そう言うとかなめは静かに加熱タバコをしまった。