第112話 ゲーム内でのむなしい妄想
「ゲームやってたのか。好きだねえ……甲武にゲームが無いからって、西よ、オメエは少しはまりすぎだ。休みになると一日中ゲームばっかしてやがる。若さって言う物のかけらもねえ。ゲームはもっと餓鬼がやるか、就職先の決まらないニートがやるもんだ。もっと若者らしくバイクに乗るとか喧嘩をするとからしいことをしろ」
落ち着いている島田がいつものように脳内が完全にヤンキーなことに誠達は胸をなでおろした。だが、いつの間にかコントローラーを手にしていた島田がすぐに情報画面を開いたのを見て西が頭を抱えるのが見えた。
「西家、妻が神前ひよこ軍曹。これはかなりむなしくないか?高嶺の花って言葉はこの状況を指しての言葉だな。俺も少しは難しい言葉を知ってるだろ、西。見直したか?」
島田のつぶやきにアンが慣れないスカートのすそに手を当てて苦笑いを浮かべていた。すぐに島田は画面を見て情報を探し始めた。
「姫武将が多いな……西園寺かなめ。西よ、命知らずもいい加減にしろよ。西園寺さんをゲームに出すなんて……射殺されたいのか?西園寺さん。俺が許可しますからコイツ射殺しちゃっていいですよ。銃は今でも持ってるんですよね。いいですよ、撃っちゃっても」
島田は相変わらず死んだ目で画面を見つめていた。
「おっ!アタシか!西がアタシをどう見ているのかよく確認してやろうじゃねえか」
かなめはすっかり仕切り始めた島田の言葉で飛び上がった。そして画面の正面に座っていたアメリアを押しのけるとそこを占領して画面を食らいくつように見つめた。
「知力52、武力100……サイボーグにしては知力が低い。これは西が西園寺さんを暴力しか取り柄の無い馬鹿だと見下していると言う証拠ですね。どう思います?西園寺さん」
島田はデータを読み上げるとかなめに相変わらずの死んだ魚のような目を向けた。
「西!テメエ人を馬鹿だと思ってんだな!良い度胸だ!今からハチの巣にしてやる代わりに痛めつけてやる!」
島田から数値を聞くや、西の首にはかなめの腕が絡みついていた。ぎりぎりと首を締め上げていくかなめの鋼の腕に西はもがき苦しんだ。カウラが取り押さえようとするが、それに面白がるようにかなめが今度は締め上げつつ振り回し始めた。
「次はアメリア・クラウゼ」
島田は騒動を無視して相変わらず画面の操作を続けていた。
「知力82か。使えますねえ。まあアメリアさんは整備班にも色々意地悪してきますから。そのくらいの知性はあって当然と西も思ってるんでしょう」
相変わらず島田の言葉にはヤンキーらしい元気が無かった。
「当然でしょ……って!武力72?ちょっと!西君!アタシがなんでこんなに弱いの?せめて80くらいないと運航部部長として示しがつかないじゃないの!」
今度はアメリアがかなめに締め上げられていた首を抜いてようやく落ち着いた西を悲しげという言葉を超越した視線で見つめた。西はただ愛想笑いを浮かべながらデータを検索する島田を見つめていた。
「ああ、ベルガー大尉ですか。知力75、武力88」
こんどはカウラ。島田も飽きてきたようで単調にデータを読み上げた。
「おい、西。なんで西園寺より私の能力が劣るんだ?それに知力が75ってパチンコをやるには頭脳が必要なんだぞ。当たり台を見つける目が必要なんだ。そのくらいの物は私にはある」
西はカウラの鋭い言葉に今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。誠もこんなことがバレたらどうなるかの参考になるとかなめ達の行動をしっかり記憶することに決めた。
「おい、島田。アタシのはあるか?」
そして先ほどまで部下達の様子を黙ってみていたランまでもが声をかけた。
「ちょっと待ってくださいよ……クラウゼ中佐っと」
島田は簀巻きにされていて気分が悪かった状態から回復してきたのか、楽しげに検索した。かなめ達におもちゃにされていた西だがようやく三人の気が済んだというように解放されてはいたが、完全にうつむいて動かなくなった。
「知力83、武力96か。順当かな?」
誠は明らかに知力が高すぎる評価に、ランがいつも特殊詐欺のいいカモになっている事実を思い出した。整備班においても『偉大なる中佐殿』への忠誠心は心理の奥底まで染みついているので、低い能力値を付けると言う考えが浮かばないのだと言う事実を誠は目の当たりにした。
「じゃあ私はどのようになっておりますの?」
今度は茜が顔を出す。島田は言われるままに検索を続けた。島田は検索を続けたが、茜とラーナのデータが無かったので画面をもう一度、嵯峨のデータを映している画面に戻した。
そこには大鎧を着て馬にまたがる嵯峨の写真が画像として登録されていた。
「去年の節分の時の豊川八幡宮の流鏑馬時代祭りの写真を使ったのか。叔父貴も馬に乗る時はシャキッとしてるんだがな。神前、良かったな、下士官で。うちでは士官は豊川八幡宮の流鏑馬時代祭りの時代行列で馬に乗ることになるんだ。まあ、アタシは貴族だから乗馬は得意なんだけどな。島田!オメーも今年は准尉で士官だ!今から乗馬の練習しとけよ!」
かなめはそう言って苦笑いを浮かべた。島田は次々と先ほどのデータの写真画像を表示する。一つ一つに設定された写真を見て誠は近くの豊川八幡宮の時代行列に参加するために嵯峨の私物の大鎧の試着をしたことを思い出していた。
「でもこの時代じゃ変じゃないのか?あれは源平合戦の時期の大鎧だぞ。まあアメリアは当世具足だからこの時代の設定でも良いかもしれないけどさ」
「こだわるわねえ。でもかなめちゃんの写真良いじゃない」
ステータス値の出ている画面には必ず武将の顔が写っているが、そこの写真はすべて先日の時代行列の時に撮った鎧兜の写真が使われていた。
「おい!神前!オメエのデータもあるぞ」
データを検索していた島田が誠の肩を掴んだ。気がついて誠もそこに映る自分の能力値を見てみた。