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第95話 独走する部下達

 法術師の支配する銀河の秩序を建設する。それが彼等の主である長髪の男『廃帝ハド』の意思だった。遼州人の世界を作るということで協調している菱川大佐の東和陸軍内部の有志達と北川が行動をともにしているのはとりあえず地球人をこの惑星遼州とその勢力圏から叩き出すと言う目的を共有しているからだったので北川も理解できた。だが、桐野が顔をつないでいる法術能力の強制発動研究施設の背後に居るのは厚生局であり、その厚生局のパトロンともいえるのは地球人の国遼北人民共和国だった。そんなものとの法術技術の腕比べなど無駄なことだと北川は思っていた。

『陛下はご存知では無い。今回のコンペの主催者からの提案だ。その主催者である人物は我々に協力したいと言うことで俺は動いている。ゆくゆくはそれも陛下の為になる。俺も考えて行動しているからな。ただの人斬りだと思って馬鹿にするな』 

 そうあっさり言い切る桐野に北川は呆れた。はじめから桐野には期待はしていなかった。ただの人斬り、死に行く敵の断末魔の声を聞きたいだけの殺人鬼に過ぎない桐野に何を言うつもりも無い。今回も彼が待ち焦がれている『同類』だと言う司法局実働部隊隊長嵯峨惟基をおびき出したい一心での作戦なのだろう。

「それじゃあ俺はいつでも証拠を消せるようにしておきますから。まあ軍人さんと厚生局の面々にはそちらはそちらで自分の尻は自分で拭いてもらいましょう。俺が責任を取る話じゃない」 

 そう言って北川は一方的に電話を切った。

「まったくただの人殺しらしく隠れていてくれると良いんだけど。あの人は法術師が斬れるとなると頭に血が上るところがある。今回は神前誠を斬ってもらっては困るんだけどな。それに勝ちの見えてるコンペをやって見せるほど、今回の出資者は価値のある存在なのかねえ……」 

 そう言うと北川は携帯端末を切った。振り返ると菱川は北川の様子など気にも留めていないというように茶を啜っていた。

「すみませんね。ちょっと急用ができましてね、大佐殿」 

 北川はわざと菱川から聞こえるように先ほどの会話を続けていた。それを聞いてもまるで反応を見せない菱川に北川は交渉相手としてふさわしくないように考えるようになっていた。

「あなたもお互い忙しい身分ですから。また情報があったら接触しましょう。連絡先は……例のサーバーを経由させますか?それとも……」 

 菱川の頬に笑みが浮かぶ。この菱川コンツェルンの御曹司でありながら東和共和国陸軍での派閥を形成する人物に改めて北川は敵意を抱いた。

「またこちらから連絡しますよ。例のサーバーは閉鎖した方が良い。公安。舐めると痛い目に遭いますよ。昔は学生活動家として追われた経験が有りますが、連中の執念深さにはほとほと感服させられる。敵には回したくないですからね。貴方と一緒で」 

 そう言って北川は笑顔を見せ付けてそのまま菱川の執務室のドアから誰もいない廊下に出た。

「世間知らずのぼんぼんか……あんなのが一派の首領とは……東和陸軍も終わりだな……せっかくこちらが連中を監視していることを教えてやったのに……厚生局の研究熱心な技術者の方々にはもう少し仕事を急いでもらわないとな。こっちの売り物の価値を上げるためには彼等にはもう少しマシな研究成果で対抗してきてもらいたいもんだ」 

 鼻で笑った北川は桐野が連絡してきた新しい研究施設の下見に向かおうとそのままエレベータに向かって歩き出した。

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