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第94話 権謀術数を巡らす『廃帝』の部下達

「餌を撒いて相手を混乱させる……まあ思うとおりに行きますかね……と言うかばらす必要があったんですかね、俺達が監視しているから注意しろって。貴方達は本当に矛盾だらけだ。敵である厚生局に資金を提供して技術開発を委託してる。厚生局と言えば東和とは犬猿の仲の遼北の影響下の組織でしょ?そこでなんであんなものを開発しようと考えるのか……ちょっと理解に苦しみますね」 

 革ジャンを着たサングラスの男がいた。その男、北川公平はただ同盟軍事機構本部ビルの一室から乾いた北風の吹きすさぶ東都の町を眺めていた。

「どういうことでしょうか?この威嚇、ある程度の効果は期待できると私は踏んでいるんですが?それとも、厚生局の研究成果とそちらが提示している法術師の能力では比較にならないとおっしゃりたいわけで?それに、あなた達は私達の商売敵。敵の敵は味方と言うじゃ無いですか。厚生局には法術に関する技術の蓄積がある。例え、それが遼北の影響下にある組織でも本国の指示で始めたことでなければ我々としては問題はない。私はそう考えますがどうでしょうか?」 

 そう丁寧にたずねたのは同盟軍事機構の東和の代表である東和陸軍所属の菱川真二大佐だった。北川は諦めたようなため息をつくと軍の高官である菱川を尻目に応接ソファーに体を投げた。

「なあに、知識の開拓に熱心な研究者の連中には警告はしましたから仕事を急いでもらえると思ったんですがね。そちらも司法局への恐喝が逆効果だったんじゃないかと。ここ最近逆に連中の動きが激しくなってる。そのことに関しては陛下も気にされていますよ。火の粉がこちらまで飛んできたら迷惑ですな。あくまでお互い敵同士。そう言う関係と言うことになってるじゃないですか、表面上は。それにあなたと厚生局の貧弱な研究じゃどう頑張って研究を早めても俺達に勝てっこない。研究熱心なのはいいですが、こう言うのを無駄な努力って言うんですよ。それと厚生局の研究。恐らく一部は本国に流れてますよ。そう言うの『利敵行為』って言うんじゃないですかね?まあ、政府のお役人に追われてた学生活動家崩れの俺が言うのもなんですが」 

 北川の言葉に明らかに怒りの表情を浮かべる菱川だった。そこに北川の携帯の着信音が響いた。北川は慌てる様子も見せずに携帯を取り出して菱川を見つめた。

「こちらも暇ができたらまた別の手段を使って脅しをかけておきますから。お互い今のところは自重しておきましょう。とりあえず今日はご挨拶だけで」 

 そう言うと北川は菱川の神経を逆なでするような憎たらしい笑みを浮かべるとそそくさと立ち上がり、そのまま部屋を出て扉が閉まるのを確認してようやく端末の回線を開いた。

「はい?誰でしょう?」 

『俺だ。連絡先は画面に表示されているはずだ。シラを切るとは趣味が悪いぞ』 

 向こう側の低い声の持ち主を特定すると北川の表情がゆがんだ。

「桐野さん。俺の予定表も知っているでしょ?今かけてくるのはやばいですよ。時と場合を考えてください。今俺は敵のど真ん中に居るんですよ。騒ぎは起こしたくないんです。そのくらいの気は使ってくださいよ。人を斬るのだけが人生じゃないですよ」 

 苦々しげにつぶやく北川だが、電話の向こう側にいる桐野孫四郎。通称『人斬り孫四郎』はまったく気にしていないというようにからからと笑った。

『なあにそのときは一人の悪趣味な男が世界から消えるだけだ。別に困ることも無い。敵のど真ん中で何人かその敵を道連れにしてくれれば俺としても助かるくらいだ』 

 あっさりとそう答える桐野に北川は唖然とする。

「その悪趣味な男から言わせて貰いますがね、これは本当に陛下のご存じの作戦行動なんですか?厚生局との腕比べはこっちが勝つのが分かってるから別にどうでも良いとして、厚生局の馬鹿共は司法局に目を付けられてますよ。連中に絡むのは面倒なことになりますよ。司法局の連中は敵の中でも一番質の悪い敵だ。関わってろくな目に遭うことが無い。面倒ごとはこれ以上御免です」 

 桐野が示した厚生局とそれを支援する東和陸軍の法術師能力強化開発との技術力比較コンペは北川の気に入る話では無かった。それを桐野が独断で北川に突きつけたときから北川はそのことが気になっていた。

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