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第61話 突然のかなめの提案

「おい、そこのパチンコ屋の角で車を止めろ。時間が時間だ。アイスでも食いたいだろ?カウラ、パチンコ屋には寄るなよ。まあ、それを制限している張本人の姐御が居るんだ。そんなバカなことが出来るオメエじゃねえのは長い付き合いで分かってるが、テメエは『依存症患者』だからな。神前、カウラがパチンコ屋に向わないよう見張っとけ」 

 突然のかなめのアイスを食べたいと言う言葉に誠は絶句した。今はもう冬と呼ぶべき季節である。その時期にアイスを食べたいと言い出すかなめの言葉が信じられなかった。

「あの、もう冬ですよ!アイスなんか食べたいわけないじゃないですか?季節を考えてくださいよ、西園寺さん。それにカウラさんもいつでもどこでもパチンコ屋に入るって訳じゃないですよ」 

「いいから止めろ。神前、テメエには嫌でもアイスを食わせてやるから覚悟しておけよ。旨いアイスだぞ。アタシは二度と食いたくねえが」 

 かなめの真剣な目にカウラも不審そうな顔をしながらかなめの指定した場所で車を止めた。

「アタシと中佐殿で行くからな。アイスは今の時期に食うからいいんだよ」 

「なんでアタシなんだ?あんなとこ西園寺一人で行けよ。別にアイスぐらい一人で持てるだろーが」 

 ランは面倒くさそうにそう言った。

「駄菓子屋と言えば餓鬼だろうが。アタシが駄菓子屋に入っていくところをさっきの餓鬼どもに見つかって見ろ。何言われるか分かったもんじゃねえよ。子供を連れたお母さんってことなら格好がつくだろ?あくまで芝居だ。我慢しな」

「西園寺の娘には死んでもなりたくねー。こんな『女王様』が母親の子供はそれこそ日野みたいな変態に育つぞ」 

 そんなやり取りに誠は助手席から降りながらいつものようにランがかなめを叱り飛ばすと思ったが、ランはなぜか一言文句を言うだけでかなめとともに降りると駄菓子屋に向かった。

「こんなところなら非合法な研究を堂々としていても誰も気にしないと言うことか。その組織も考えていると言う訳だ」 

 カウラはそう言いながら周りを見た。シャッターを半分閉めて閉店しているかと思っていたパチンコ屋から疲れたような表情の客が出て行く。誠もこの界隈が普通の東和、発展する東都から見捨てられた街であることが理解できた。

「しかし……あれを見ろ。西園寺とクバルカ中佐。まるで親子みたいだ」 

 そう言うカウラの顔が微笑んでいるのを見て、誠は彼女が指差す駄菓子屋を見た。どう見ても小さな女の子にしか見えないランがかなめに店の菓子を指差して買ってくれとせがんでかなめのジャケットのすそを引っ張っている光景が見えた。

「芝居が過ぎるな。クバルカ中佐も西園寺にあれほど気を使う必要などないのに」 

 カウラの微笑む顔を見て誠も頬を緩めた。かなめはランの頭をはたいた後、店番の老婆に話しかけた。

 老婆はそのまま奥に消え、しばらくして袋を持ってでてそれをかなめに渡した。かなめは財布から金を出してかなりの金額の札を渡して支払いを済ませるとそのまま誠達のところに歩いてきた。

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