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第55話 『駄目人間』隊長の思惑

「ほう、出かけてったねえ。今回の事件は結構きついぞ。力任せって訳にはいかないからな。頭を使わなくちゃならないからね。相手はそれなりに頭のいい奴の集団だ。そうなると普通は役人ってことになるが……そこまで考えがめぐってるかな?」

 隊長室から部隊の敷地から出ていくカウラの車を眺めながら司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基(さがこれもと)特務大佐は頭を掻いていた。

「良いんですか?兄さん。フォローしなくて。僕の思うところ間違いなく今回の事件には東和政府か同盟機構のどこかの機関が関わっています。そうなると後々厄介ですよ。下手をすると兄さんの所に横槍を入れてくるかもしれない。その時はどうするんですか?」 

 思わず腹違いの弟である高梨渉参事がそう言うと嵯峨は死んだ魚のような目をしてたたずんでいた。

「それがあいつ等のお仕事なんだから。駄目だよー、ちゃんと自分に与えられた任務は着実に果たす。仕事きっちり。これ大事なんだから。それに相手が政府の機関だったら猶の事しっかりネタを上げて相手を締め上げないと。役人は不十分な証拠じゃ逆に法律を盾にとってこっちの足元をすくいにかかる。そんな一筋縄ではいかない相手とやりあうと言う経験も茜達には必要だと思うんだ、俺は」 

 嵯峨は窓の外に目を向けた。そこには嵯峨の娘の茜が自分のセダンにアメリア達が乗り込むのを眺めているところだった。

「それはさておいて、親馬鹿かもしれないけどさあ。安城(あんじょう)さんの機動部隊、茜の法術特捜、そしてうち。一番評価が低いのは法術特捜だからな。本音を言うと今回は金星を上げてもらいたいんだよね。相手がお役人となれば、その首を取ればそれこそ大手柄だ。一挙に評価も上がるってもんだよ。ついでにうちの『特殊な部隊』の別名が無くなったりして」 

 その言葉に高梨は頷いた後、嵯峨の執務机のモニターを開いた。嵯峨は相変わらず北風を浴びながら外を眺めていた。

「今回はどろどろしてそうな事件だが『ビックブラザー』は関わっていないだろうからな。あのご仁は東和の平和にしか興味無いし。マフィアの大規模版か悪くて木っ端役人程度か……まあいずれは潰す必要のある連中のいたずらってところかねえ」 

 高梨がその言葉にキーボードを操作する手を止めた。

「なら猶の事フォローしてあげた方が……どちらが相手でもあの人数でどうにかできる相手じゃないですよ」

 そう言う高梨を嵯峨は笑って見つめていた。

「フォローはするって。俺なりになんだけどね。俺には俺のやり方が有る。茜は自分のやり方を見つければいい。それだけの話さ」

 娘の成長を見守る駄目な父親として嵯峨は明るい笑顔で高梨に向けてそう言った。

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