第56話 背広組の役人が見せたいもの
「そんな連中の事件の話は別としてだ。なんだよ、見せたいものがあるんじゃないのか?俺の興味を引くものなんだろうな……つまらないものだったらいくら『駄目人間』の俺でも怒るよ」
その言葉を聞くと嵯峨の顔を見て恥ずかしそうに笑った後、高梨はそのまま作業を続けた。
「偶然なんですよね。たぶんこれは撮った方も撮られた方も気づいてはいないと思いますし、証拠としては使えない資料なんですが……もしかしたら兄さんの役に立つんじゃないかと思って……」
そこには労働関係の役所の資料であることを示す刻印のある中層ビルの崩れた鉄骨の写真があった。高梨はその一角、鉄骨の合間に見える外の光景を拡大していった。長髪の男が写っていた。これは以前誠達を喫茶店で襲撃したマルチタスクの能力を持つ法術師がまさに誠達を襲撃しようとしている瞬間を写した写真だった。
「確かに証拠資料にならないね。これがこの前ラン達を前に法術のデモンストレーションを見せた悪趣味な奴か?確かに悪趣味そうな面だわ。人間性の悪さがにじみ出てる。人間こうはなりたく無いもんだ」
そう言って嵯峨は引き出しに手を伸ばした。言葉はふざけている割に嵯峨の表情はどちらかと言えば緊張していた。
舞う埃の中から取り出したのは三枚の写真。散らばる書類の上に嵯峨はぞんざいにそれを広げた。
写っているのはどれも長髪の目つきの鋭い男だった。それは先ほど高梨が見せた画像と同じ人物が写っていた。
「同じ人物だな。どれも嫌な顔しているな。会いたくないよ、こういう面をした奴とは」
嵯峨はそこに写る長髪の男をじっと見つめた。
「兄さん。別に兄さんの好みを聞いているわけじゃ無いんだ。それよりこの人物……気になりませんか?僕もこの顔には見覚えがあるんですよ……確か、高校時代の歴史の資料集に出ていたような……」
腹違いの弟である高梨の言葉に堅い表情を浮かべる嵯峨の顔に緊張が走った。