第51話 場所が場所だけに
「じゃあ全員得物はそろったわけだな」
「こいつのはいいんすか?」
ランの声に手を上げてラーナをかなめが指差す。
「ああ、カルビナ巡査の銃は以前から対法術師装備だ。それじゃあ各員準備して会議室に集合な」
そう言ってランは部屋を後にしようとした。
「別に準備とか……」
「神前。カウラが制服じゃまずいだろ?一応極秘捜査なんだから。それに場所が場所だ。住民を刺激しないためにも制服姿はまずいんだ」
確かに今のカウラは東和軍の勤務服である。しかも租界の付近の廃墟の街の住人が軍服を見れば何を勘繰られるかわからないことくらい誠にも想像がついた。
「大丈夫だ。ちゃんと平時の服も更衣室に用意してある」
そう言うとハンガーへ向かう誠達と別れてカウラは女子更衣室に消えていった。
「それじゃあ……って何かすることあるのか?ちび」
かなめの言葉に振り返ったランは明らかにあきれ果てたと言うような顔をしていた。
「一応オメーも勤め人だろ?詰め所で端末の記録をのぞくくらいの癖はついていても良いんじゃねーのか?」
そう言ってランはそのままとっととハンガーへ向かった。
「言い方を少し考えろっての。なあ」
かなめはそう誠に愚痴ってその後に続いた。ハンガーはやはりいつも怒鳴り散らしている元気だけが取り柄の島田がいないと言うことで閑散としていた。
「銃は受け取ったんで……じゃあ、俺はパーラさんの車を……」
「仕事中だろ?着替えたら会議室に直行だ」
振り向いて叫んだランの言葉に島田は肩を落とす。サラは微笑んで彼の肩を叩いた。
「ふざけてないで行くぞ!」
ランに引っ張られるようにして皆はそのまま階段を上がった。ガラス張りの管理部の部屋の中では先月までの部長代理の菰田に代わり、管理部部長として赴任した東和国防軍から派遣されたキャリア官僚の高梨渉参事官が菰田を立たせて説教をしていた。
「島田。なんならアタシがアイツと同じ目にあわせてやろうか?教導隊じゃあアタシも平気で二、三時間説教するなんてざらだったぞ」
ランの言葉に苦笑いを浮かべた島田はそのまま早足に実働部隊の待機室を通り過ぎて会議室に向かった。
「冗談の分からねー奴だな」
「すまん、遅れた」
スタジアムジャンパーに着替えたカウラがそう言いながら詰め所をのぞき込んだ。
「それじゃあ、第三会議室。いくぞー」
かなめはその有様を見ながらにんまりと笑って、まだ嗚咽を繰り返している誠の肩を叩いた。