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第52話 捜査範囲の分担

 会議室の扉の中ではすでにアメリアと島田、そしてサラが茜の説明を受けているところだった。

「ああ、いらっしゃいましたのね。ラーナさん。説明をお願いするわ」 

 そう言うと茜は再びアメリア達に説明を始めた。

「じゃあ、よろしいっすか?クバルカ中佐」 

「おー始めてくれ」 

 ランはすぐに携帯端末を開く。誠とカウラもすぐにポケットから手のひらサイズの携帯端末を開き、その上方に浮かぶ港湾地区の地図に目をやった。かなめは黙って目をつぶっている。誠は彼女がいつものように脳内と直結させて情報を仕入れているのだと思った。

「今回の捜査っすが、嵯峨警部と私、それにクラウゼ少佐、グリファン少尉、島田准尉のチームとクバルカ中佐、ベルガー大尉、西園寺大尉、神前曹長のチームに分かれるんす」 

 ラーナはいつもの口調で、簡単に捜査のチーム分けを発表した。

「誠ちゃんとは別チーム。残念ね。と言うか……かなめちゃん!誠ちゃんに変なことしたら承知しないわよ!今朝の件もあるんだから、かなめちゃんは姉妹で全く変態の家系を背負ってるからと言って誠ちゃんを変な世界に引き込まないでね」 

「誰がだ!変態はかえでだけだ!アタシは鞭で打ったり縄で縛ったりするのは好きだがされるのは嫌いなんだ!それとアタシが寝るとき裸なのはいつもの事だ。取り立てて騒ぐことじゃねえだろ」 

 アメリアの茶々にかなめがお約束で怒鳴り返した。ただ、内容は自分はサディストの変態だと言う内容だった。それを無視してランはせかすような視線をラーナに向けた。

「港湾地区のエリアっすが、私達は主に陸地側と官公庁を担当、クバルカ中佐達はそれより租界側と租界内部の調査をお願いするっす」 

 ラーナの言葉が当然と言うようにかなめが頷いた。

「西園寺、テメーの租界の中の人脈はどうなんだ?使えるか?」 

 小さなランの頭がかなめに向き直る。

「あてには出来ねえな。実際、三年前の同盟駐留軍の治安出動でやばい連中はほとんど店じまいしたって聞くしな。それに叩けば埃が出る連中に会おうってのにカウラみてえな堅物をつれて回ったら何にもしゃべるわけがねえよ……てか肝心のこの研究のスポンサー連中の捜査はどうすんだよ。今聞いた限りじゃ末端の研究施設を見つければ御の字みたいな口ぶりじゃねえか」 

 そう言って隣のカウラを見る。誠も私服を着ててもどこか軍人じみたところがあるカウラを見て苦笑いを浮かべた。

「愚痴るなよ。アタシだってそうしてーのは山々なんだが……物事には順序があるだろ?お役所のお偉いさんに証拠もなしに噛み付いたらアタシ等の首だけじゃすまなくなるぞ」

 ランは明らかに不機嫌な調子でそう吐き捨てた。彼女もかなめの言うことは十分分かっているが組織人としての経験がかなめの無謀な行動に釘を刺して見せた。

「じゃあ捜査のチーム分けはそうするとうちのチームは必然的にアタシと西園寺。ベルガーと神前の組み合わせになるな。いつどんな法術師に出会うとは限らねーからな。アタシか神前で法術師に対応することになる。西園寺とベルガーが支援だ」 

 ランの言葉にカウラをにらむかなめだが、すぐに何かを思いついたように黙り込んだ。

「でもどう調べれば良いのですか?人体実験を行うそれ相応の規模のプラントなどなら警察や諜報機関が察知していても良いはずなのに……そちらの情報は無いんですよね」 

 確認するようにカウラがラーナに尋ねると、彼女はその視線をかなめに向けた。

「まあ諜報機関はあてにならねえな。あいつ等は上層部の意向で動いている連中だから情報つかんでいても上のOKが出ない限り口は開かねえ。一方、地理には詳しいだろう東都警察の方は湾岸地区はお手の物だが手が届かない租界内部に今回のプラントを作った連中の本拠があるなら権限がとどかねえしな。ただでさえ沿岸の再開発地区の広すぎる地域をカバーするはずの警察ですら人手が足りないくらいなんだ。アタシ等の捜査に協力する人員などゼロだろうな。まあ叔父貴から正式な要請があれば動くだろうが……ホシが逃げる準備が十分できるようなローラー作戦意外考えつかねえ連中だ、当てには出来ねえよ」 

 かなめはそう言うとランを見つめる。

「それにだ。非合法とは言え明らかに先進的な法術覚醒や運用の技術を持ってる連中が相手とすれば、その情報を欲しがっている国の庇護を受けている可能性もある。そうなれば相手はチンピラじゃなくて非正規部隊だ。お巡りさんの手に負える相手じゃねーよ」 

 そんなランの言葉に誠は握り締めていた手に力が入る。

「でもそれなら僕達でなんとか出来るんですか?」 

 誠の顔を見てランが不敵に笑った。

「上はそれだけのオメーを評価しているってことだ。ラーナ、とりあえず捜査方針とかは後でアタシのデータに落としといてくれ。行くぞ!こんなところでくっちゃべったところで始まらねーだろ?」 

 そう言ってランは椅子から降りる。誠はそのかわいらしいしぐさに萌えを感じてしまった。

「ロリ!ペド!」 

 かなめはランに目をやる誠の頭を軽く叩くと会議室の扉に手をかけるランの後ろに続いた。

 まさにチョコチョコと先頭を歩いて進むランを誠は萌える瞳で見つめていた。

「おい、さっきから目つきが怪しいぞ」 

 かなめは今度は誠のわき腹を突いた。カウラは呆れたようにため息をついた。

「おう!ちょっと任務で出かけてくる!しばらくは連絡や報告は携帯端末にしてくれ」 

 本来は隣にある菱川重工豊川工場で訓練しているはずの日野かえで少佐達、第二小隊の姿が見えたが、ランの言葉を聞くとかえで達はいつもの異常な行動をとることもなく黙って頷いていた。

「やはり他の隊員にも秘密なんですね」 

 誠の言葉に真剣な表情でランが振り向いた。

「例のかつて人間だったものを公開するわけか?パニックが起きるだけだな」 

 そう切り捨ててカウラはそのまま階段を下りた。

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