元勇者
おおよそ三十年前。
ヒロおじは僕と同じように孤児であり、先代の勇者に鍛えられ異世界の送られたらしい。
目的は勇者となり、異世界の平和を脅かす存在の魔王を倒す為。
異世界に転移したヒロおじは、僕と同じようにオリジナルの魔法を考えたり、現地の人達と交流を図りながら各地を旅をし信頼できる仲間も見つけた。
ここまでは、一緒。
やけど、魔王を倒し終えた後が全く違った。
一時は平和になったらしく、その居心地の良さに孤児であったヒロおじは、一生住まうことも考えたようや。
そしてその数年後。
魔王という共通の敵が居なくなったことで、各種族が揉め始め、勇者であったヒロおじはその立場を逆手に取られ小間使いされたらしい。
それでも世界を平和にできるならと思い、望まれるがまま種族間の争いの仲裁役を担うようになった。
でも、それが悪夢の始まりやった。
単騎で種族間の問題を解決出来る存在。
勇者に対抗出来るのは、魔王しかいない。
時間が経つにつれて、世界を救った英雄ではなく、世界をその気になれば、破壊できる存在として認識された。
結果、ヒロおじは異世界で居場所を失い、日本に転移してきたようや。
その時に出会ったんが、次代の魔王を育てる為に、隠れ蓑を探していた魔王のお爺さん(生き延びた先々代の魔王)ってことらしい。
「――これが表側から見た顛末だな。まさか俺の師匠が魔王を倒し損ねているとはな。と皆思っただろうな。まぁ俺も人のことを言えた義理じゃないがな。ハハハッ」
話を終えたヒロおじは、乾いた笑い声を響かせる。
表向き……どういうことやろう。
ヒロおじは魔王を倒したから、英雄に持ち上げられたわけで……それに表と裏とかないはず。
まぁ、でも今は関係ないことか。
それよりもや――。
「いや、でもそれで二人が防衛省庁舎におるなんて説明つかへんで?」
「フッ、それはお前……俺は仮にも元勇者だぞ? 本気になれば何とでも出来る!」
隣に座っているヒロおじは腕を捲り笑顔を見せる。
「いやいや! それだけはあかんやろ! 何やってんねん!」
「冗談だ、冗談だ! すっかり信じちゃってトー坊は可愛いなー!」
ヒロおじは立ち上がり頭を撫でる。
「っ――こんのおおぉっ! くそおじが! 今、撫でるな! というか、そもそも撫でるな!」
腕を振り払い、胸ぐらをつかむ。
ムカつくを通り越して、今すぐぶっ飛ばしたい。
「フハハハッ! 落ち着くのだ、我が宿敵よ! この魔王である我が要点を簡潔に纏めてやろう! つまりだ、我らが共に支え合い一生懸命生きた結果だ」
魔王が立ち上がり間に入る。
今度はこいつか……あかんわ我慢できひん。
「はあぁぁぁーーーーーん?! そんなんで納得出来るやつなんかどこにおんねん? いっぺんそのわいた脳みそストローでちゅーちゅー吸うたろか!? おおん?」
「いや、我はその……真面目に困っておると思ってその――」
「お前、魔王やろ? ちょっとキツく言われたからって指ツンツンすんなや! 言い返してこんかい!」
「いや……その――」
魔王は言い負かされたことでさっきまでの勢いを無くしソファーに座る。
「勇者トールよ……重ね重ね、ワシの孫が――」
「あぁ――っ、もう大丈夫ですから!」
向かいに座ってる魔王とその強い老人……いや、もう何ていうか、完全に魔王を意識し過ぎてこじらせた孫とただの優しいお爺ちゃんやん。
って、結局、なんでこうなったんや。
勇気、希望、友情、愛情、根性でしたってことかいな?
いやいや、どこの少年系雑誌やねん。
こっちは現実の話やで。
「そんなん誰が納得すんねん……」
「ハハハッ! そんな顔をするっての」
「そら、変な顔にもなるで。こんな意味不明なことばっか目の前で起きたらな」
「まぁでも、そこの魔王ちゃんの言っていることはあながち間違ってないぞ?」
微笑みながら魔王のことを見る。
「いや、ヒロおじ……間違ってる間違っていない以前に、魔王のことをちゃん付けで呼んでるん?」
「ああ、歳下だからな。というか、トー坊は変なところに引っ掛かるなー……今回はちゃんと話を進めようとしたのにー……勇者と魔王しか知らない裏の話をさー……」
話の腰を折られたのが、気に入らなかったらしい。
口を尖らて不服そうにしてる。
自分のこと棚に上げて……何言うてんねん。
でも、そうか……やっぱりこの話には裏の話があるんか。
「あーはいはい。わかった。黙って聞いとくわ」
再び、黙って話を聞くことにした。