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呼び出し

 僕は元勇者トール。

 この日本に帰ってきて、今日でちょうど八ヶ月。

 ようやく僕に付いてきた物好きな仲間達の扱いにも慣れてきたところ。

 ついてきた当初はホンマにどうなることかと思った。

 カルファは人目があるところで、堂々と魔法を使おうとするし、チィコは強さが全てみたいな思考やし、ドンテツに限っても安牌やと思ったら就職先で加護付きの包丁とか打ってくるし。

 どれだけ手を焼いてきたか。
 思い出しただけで、笑いがこみ上げてくる。

 やけど、今はそれぞれの場所で居場所を見つけれてる。

 これは恥ずかしいから皆に言わんけど。

 僕にとって一番嬉しいこと。

 これで平和な世の中でも、自分を見失うことなく生きていけるはず。

 そんな僕やけど最近はオカンっぽいとか、仲間から頻繁に言われるようになった。

 僕的には、普通に接してるだけなんやけど。

 もしかしたら、気付かん間に全員のことを自分の子供みたいに思ってたんかも知れへん。

 歳いってても、しっかりしてるように見えても、大人っぽくなっても世話掛かりっぱなしやったしな。

 一番、年下のチィコが一番大人やと感じるくらいに。
 

 ――ブブッ。
 

 キッチンで過ごしてきた日々に思いを馳せてると、ワークトップに置いていたスマホが鳴る。
 
「ん? ヒロおじか」

 スマホを確認するとヒロおじから、メッセージが届いていた。

「市役所に来い? 今から防衛省庁舎に行くから?」

 今になって、庁舎に行くとか……あれか? ようやく偉いさんとご対面って感じか?

 疑問に思いながらも、ヒロおじにメッセージを返し、市役所へ向かうことにした。

 

 ☆☆☆



 市役所の奥ばった場所にある市長室。

 僕は応接用のソファーに座り、ヒロおじから呼び出された件について話していた。

「トー坊、お前さんを呼び出したのは、その時が来たからだ」

「その時って、どの時や? 僕だって暇やないんやで。家事に施設の手伝い諸々あるんやから――さっさと本題を言うてくれる?」

 十中八九、あんだけしらばっくれてた偉いさんと会うってことやろうな。

 今になって会わそうとする意味まではわからへんけど。

「ハハハッ、まぁ、そう邪険にするなよ! でも、そうだな。お前の察し通り、防衛省にいるとある奴に会って貰う。お前も良く知る奴にな」

「よく知る奴?」

 一体、誰のことを言ってるんやろう。
 防衛省に行ってもヒロおじの腰巾着同然やったし、定期報告とかいう名目の書類提出しかしてない。

 それやのに、僕の知ってる奴って。

 意味わからへん。

「ヒロおじちゃん、大好きなヒー坊に疑われてショック〜!」

 怪しむ視線に気付いたのか、バカでかい体をくねらせてる。

 これをされた方の気持ちとか、考えた事あるんかな。
 余計怪しいし、何か隠してるとしか思わへんやん。

「ヒロおじ……そういういうんはええって!」

 少しムカッと来てしまい、強く言ってしもた。
 でも、このタイミングでふざけるのはナシよりのナシやわ。ドンテツがおったら、確実に嫌な顔してたやろうな。
 いや、カルファ、チィコであっても良い反応はせえへんか。

「そうかそうか、さすがにふざけ過ぎたな!」

「いや、やっぱふざけてたんかい!」

「まぁ……な。で、だ――」

 ヒロおじは腕を組み、声のトーンを落とす。
 真剣な顔になったな、ようやく本題か。
 
「お前、まだ転移魔法使えるだろ?」

「ああ、使えるで? まぁ、よっぽどのことがない限り使わんけどな」

「そうか……じゃあ、前行った防衛省庁舎の談話室に転移は可能だな?」

「そら前に行ったことあるからな」

 防衛省庁舎の談話室、A棟の上層階設けられた僕ら二人が報告する為、毎回訪れる一室。

 十六畳ほどの広さに厚手のカーペット敷かれ、高級そうな革張りのソファーが中央に置かれたガラス張りのテーブルを挟むようにして二台ある。

 やけど、いつ訪れても部屋には人は居らず、そのテーブルの上に毎回、何をしてきたか纏めた書類を置いて帰る。

 これが僕とヒロおじがしてきた定期報告。

 「あんな場所に行くだけやのに、ここにきて転移魔法を使うん? いつもは契約書を守らないとあかんとか、口うるさいのに」

「ま、それくらいどんでもない人物ってことだな」

 なるほど、道中すら見られたらまずいってことか。
 そこまで警戒しないとあかんって……一体どんな奴が待ってるや。
 いや、ここで悩んでても埒が明かへんな。
 なら――。

「わかった。ほんならさっさと会いに行こか。そのとんでもない人物とかに」

 行動に移した方がよっぽど建設的や。 

「おう、宜しく頼む。そこに行けば、お前の知りたいことが全てわかる」

「……ふーん、そうなん。聞きたいことも言いたいこともあるけど、ヒロおじがそこまで言うならわかった。ほんならもうちょい近く来てくれる?」

 指示を出すと同時に立ち上がり、ヒロおじを手招きする。

「これでいいか?」

 ヒロおじはそれに従いソファーを立ち上がり隣に立つ。 

「おっけーや、ほないくで。転移魔法発動!」

 転移魔法を発動し、そのとんでもない人物が待つという、談話室へと転移した。

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