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挨拶

 リビングテーブルでお茶と豆大福をお供に、話し始めて一時間ほど経過した頃。

 終始会話は和やかな雰囲気で進み、異世界での日々や儂がドワーフ族ということも明かせた。

【|視認変化《エクスチェンジ》】を解除した時の顔は、なかなかに凄いものだったが。

 それ以外は、案外すんなり受け入れてくれた。

「――ま、そういうことやね。だから、ドンテツは人間やないし、僕らより間違いなく長生きする。それでも好きって言える?」

「はい……言えます! 寧ろ一段と好きになりました! 長生きなら私だって長生きします! 一人にさせません。子供もたくさん産みたいです」

 雪さん、儂なんかに勿体ない言葉を。
 だが、子供はちと気が早いような。
 師匠が聞いたら、気絶しそうだの。
 とはいえ、儂にここまで好意を寄せてくれるとは。

「……ありがとう。雪ちゃん」

「あ、いやその! もし長くお付き合い出来て、もし……その一緒になれたならの話です……」

 どうやらあとになって自分が口にした言葉の意味を理解したらしい。

 やはり、好きだ。

「好きだ。雪ちゃん」

「へぇっ?!」

 しまったぁぁーーーーー!
 儂としたことがとうとう口に出てしもた。

 雪ちゃん、言葉の意味を理解出来ず、何やらブツブツ言っておるし、どうやって誤魔化せばいいのだ?

 あ、そうであった。

「あ、いやそのあれだの! 豆大福! そう豆大福だ! お茶と豆大福は合うのー! まるでワンカップ酒とエイヒレみたいだわい!」

「っあはははーー! なんやそのベタな誤魔化し方! 好きって言うてもうてるやん!」

「むう……」

 ダメだったわい。

 トールは泣き笑いしておるし、雪ちゃんは「豆大福、豆大福が好き……」と完全に壊れておる。

 自分の不甲斐なさに意気消沈しているとトールが肩を叩いてきた。

「いやー安心したわ。こんな面白い相思相愛もあるんやな。正直に言うと、僕な君の記憶消してしまおうか悩んでてん」

 あまりの衝撃的な発言に正気を失いかけていた、雪ちゃんも正気に戻る。

「えっ、記憶を?!」

「お、お主――」

 まさか雪ちゃんの記憶を消そうとしておるとは、微塵も考えんかった。

「待て待て。ということは、カルファの友人、チィコのクラスメイト。施設の子供達にも同じことを考えておったのか?」

「いやいや、今はもうそんな気はないよ? けど、僕もこの世界を守らなあかん。相手が秘密を守られへんかったりする人間やったら、そこに一切の躊躇なんてあらへん。それが君らの友達や僕と仲のいい子でもな」

「……そうか」

 そうだったの。儂らは役目を終えトールもまた勇者としての役目は終えた。
 だが、それは儂らの世界での話。
 この世界ではまだその関係者として、国に仕えておるんだった。

 この平和な日本にいたせいか、儂はトール、お主も含めて皆が満喫しておるとばかり――。

「すまんぬ……いつも」

「って、何で自分が暗い顔すんねん。これは僕の使命や。だから、契約書を交わさんでも魔法は使えるわけやしな。これはこれで楽しいで? まぁ……のんびりスローライフとはいかんけどな」

「ガハハハ! そうだったの!」

 そうだった。
 トールはこんなことで落ち込みはせんの。
 いつも先の先を考えて行動し、口は悪いが誰よりも平和を愛す、子供好きで母親のような勇者らしくない勇者だったわ。
 儂はそんなお主だから付いていこうと決めた。
 きっとカルファもチィコもの。
 
 やはり、この世界にも付いてきて正解だった。

「そやで! だから、気にせんでええ。寧ろなーんか一人抜け道を見つけて何か企んでるやつに頭悩ませてるところや」

「勇者さんは役目を終えても大変なんですね……」

「そうそう、寧ろ役目終えてからの方が色々と面倒くさいねん。あ、お茶おかわりいる?」

「はい、頂きます!」

「儂がいれるぞ!」

「そうか、ほなたまにはお願いしよかな」

「おう、任せい! ドワーフ特製のええお茶をいれるで」

「で、出たぁーーー! テツさんの不思議な関西弁!」

「あはははーっ! なんや、その変なイントネーション。全然違うからな! いれるで! や」

「ガハハハッ! 変だったか! まだまだ練習が必要だの!」

 これからも宜しく頼むぞ。
 儂らの勇者トールよ。 

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