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デート

 数日後。

 儂は休みということもあり、師匠、ママさんの許しを得て雪ちゃんとデートすることになった。

 だが、カフェやショッピングモール、遊園地に出掛けたりするわけではない。

 まずは一番しなければならないこと。

 今日それをするつもりで、とある場所に訪れていた。

「雪ちゃん、着いたぞ。このマンションが儂の住まいだ」

 雪ちゃんを引き連れ足を運んだのは、儂ら勇者パーティが住まう家だ。

 ここへ二人で訪れたのは言うまでもなく、雪ちゃんに儂の秘密を明かしていいのかをトールに許しを得る為。

「へぇー! ここがテツさんがお友達とルームシェアしているお家ですか! ふふっ、なんでしょう……少し意外です」

「ふむ、意外なのか?」

「はい、ただ私が勝手に想像していただけなんですけどね。何となくテツさんはもっと古風な日本家屋に住んでいると思っていました。後ろに工房なんかあったりする! って、妄想が過ぎますね」

「工房か……あながち間違ってはおらんかもな……」

「……はい?」

「いや、何でもない! こっちの話だ」

 カルファのように何かを勘ぐって会話をしているわけではないのに鋭い。

 さすがは師匠もタジタジにするママさんの娘さんだの。

「あ、テツさん、エレベーター来ましたよ?」

「うむ、では行くかの」

「はい!」

 雪ちゃんがエレベーターに入ったのを確認し、七階のボタンを押す。

「楽しみだなー! テツさんのお友達に会えるの」

 雪ちゃんには、唯一無二の親友に会ってほしいという話で通している。

 初めてデートが自宅というのは、何というか申し訳ないが、こればかりは避けて通れん。

 それにしても純粋だの。

 儂なんかに会う為に洒落た格好もしてきたんだろうな。

 エレベーターの鏡に写るのは、お世辞にもかっこいいなどとは言えない、小さくずんぐりむっくりな儂。

 その隣には白いコートにどういった生地を使っているのかわからんが、キラキラと光る青色のセーターに、チェック柄のロングスカート。

 ポニーテールが映える月の紋様と鈴が印象的な髪留め二つ付けた、綺麗な女性。

 実はこの内の一つは、儂が作った物。
 何も言わず、必ず付けてくれる。

「服……似合っておるの……髪留めも……」

「あ、ありがとうございましゅ……」

「う、うむ」

 今、噛んだの。

 だが、それもまた趣きがあっていい。

 やはり、儂は雪ちゃんが好きだ。

 

 ☆☆☆



 儂らはエレベーターを降り、モノクロに統一された住まいに足を踏み入れていた。

 トールにはあらかじめ話を通しており、カルファやチィコには申し訳ないが、二人がいないタイミングを見繕ってもらった。

 チィコはともかく、この時点でカルファにはあまり言いたくないからの。

「初めまして、いつもテツさんと仲良くして頂きありがとうございます! 私は月乃屋商店の娘、月乃雪子と申します。トールさんのお話はテツさんからかねがね伺っております。何やら人生を変えた素晴らしい方とか――」

 雪ちゃんは玄関へ上がるなり、地元商店街で買った豆大福を手渡す。

 これは販売直後から行列のできる|腹福堂《ふくふくどう》の豆大福。

 購入する為には、少なくとも三時間は並ばねばならない至極の一品だ。

 雪ちゃんが何か持っていきたいと言ったので、二人で考えた結果。

 雪ちゃんの地元の名物であるこの品となった。

「っ――あはははっ! そんな畏まらんでええよ? こちらこそ、こんな堅物と仲良くしてくれてありがとうね。ま、大したところやないけど上がって」

 トールは儂らを交互に見ると、笑みを浮かべながら手土産を受け取り案内する。

「お邪魔します」

「どうぞー! というか、これ腹福堂の豆大福やん! こんなええもん持ってきてくれたんかぁ……気い使わせたみたいやね。わざわざありがとうね」

 さすがはトール。
 包装紙を見ただけで、何を渡したのか気付いてくれたの。
 これで掴みは間違いなしだ。

「いえいえ、せっかくお邪魔するので美味しい物を持って来ようと思いまして――」

「ふふっ、そうかいな。雪子さんは気が利く子やね。それはそうとドンテツって、色々と変わってるやろ?」

「変わっているなんて、とんでもないですよ! 確かに少し常識外れな部分はありますけど……でも、それも魅力の一つです。とても優しいですし、鍛冶師としても尊敬できる方ですし、あ、褒めて頂きありがとうございます」

「いやいや、僕は本音を口にしただけやから。にしても……君はホンマにドンテツのこと好きなんやね」

「好きですか、そうですね……好き……です」

「ふふっ、真っ直ぐ過ぎてこっちが照れてまうわ! そやそやお茶やお茶! 今から準備するからそこ座っといて」

「はい、では失礼します」

 トールは雪ちゃんがリビングテーブルに着くのを確認すると儂を手招きした。

「ドンテツはこっち来てくれる?」

「う、うむ……」

 儂はそれに従い恐る恐るキッチンへと向かう。

 一体何だ。
 雪ちゃんは何も失礼なことはしていない。
 お土産の豆大福もあんなに喜んでおった。
 確かに人前で好きなどと恥ずかしいことを口にした。

 だが、そんなことをとやかく言わんだろう。
 トールには色々な相談を乗ってもらっていたわけだしの。

 ということは、儂か?!
 雪ちゃんに喋らせ儂が黙っておるから、それに灸を据えようとしておるのか?!

 そうだとしたらなんと言う失態だ。

「わ、儂が黙っておったのはだな――」

「あははっ、大丈夫や! 何か文句を言おうとしたわけやない。単純におめでとうって言いたかっただけやで」

「……そ、そうか。その――感謝する」

「あははっ、顔真っ赤やん! ほな、色々と根掘り葉掘り聞こか! お茶と貰った豆大福をお供に」

 ここからはほぼ空気と化した儂を差し置いて、二人は会話に華を咲かせた。

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