第31話 『ビッグブラザー』の影
「ぶっちゃけて言うとだな。まず数がすげー少ないんだ。数億分の一。ほとんどいないと言っても過言ではねー割合だ……ただ、死なねえからな。年々数が増えていってアメリアの言うように役所の戸籍係が書類を偽造して二十代がやたら多い年齢構成の国にこの国がなっちまったのは事実だがな。それと『ビックブラザー』の存在がある」
ランはそう言って笑って見せるが、『ビッグブラザー』と言う言葉を聞いた途端、その場に緊張が走った。
「『ビックブラザー』……東和を支配する謎の指導者……情報とアナログ型量子コンピュータで世界を支配する存在」
誠はランの言葉で久しぶりにこの遼州の主の名を思い出した。
「そうだ。報道管制どころか完全に記録を捏造して隠し続けてきたわけだ……どうやらそれのボロも出始めたみたいだがな。アメリアの知ってるくらいの事は地球圏の連中ももうとうに知ってる。いつかはバレることだったんだ」
ランはそう言ってどこか悲しげにほほ笑んだ。
「まあ『ビックブラザー』はいいとしてだ。その数億分の一がごろごろ東和に転がっているわけか?しかも、どうせこの化け物も湾岸地区でみつかったって落ちだろ?明らかに誰かの作為がある、そう茜が思っていなきゃアタシ等はここには連れてこられなかったんだろ?」
そう言って皮肉めいた笑顔で茜を見つめるかなめがいた。
「正解。かなめお姉さまさすがですわね」
わざとらしく手を叩いて褒めてくる茜をかなめはうんざりしたような表情で見つめた。
「このかつて人間だった方は租界の元自治警察の警察官をされていた方ですの。その人が四ヶ月前に勤めていた自治警察の寮から消えて、先月大川掘の堤で発見されたときにはこうなっていた」
茜の言葉に再び誠は鉛の壁の中ののぞき穴に目をやった。