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第30話 誠を待つ宿命

「テメエなんで今まで黙ってた!知ってたんだろ?なあ!力を使えばいずれこいつも……」

 怒鳴りつけてくるかなめにラーナは驚いたように瞬きをする。その様子を静かに茜は見つめている。 

「それは心配する必要は無いですわ。神前曹長の検体の調査では細胞の劣化は見られていますし、あの忌まわしい黒い霧……『瘴気(しょうき)』を出すような能力は持ち合わせていないですもの。誠さんは不死人ではない。……うちではお父様とクバルカ中佐、それに……」 

 茜の冷たい声にかなめはラーナから手を振りほどいた。

「これは、確かに他言無用だな。まあ誰も信じる話とは思えないが。不老不死を望むとこうなる可能性がある。地球人に教えてやりたいな、遼州人の宿命というものをな」 

 カウラはそう言うと複雑な表情の誠の肩に手を乗せた。

「でも、百歩譲ってそれが遼州人の法術の力だとして、なんで今までばれなかったの?まあこの部屋をのぞいて不死身っていえる存在があるのは分かったけど、こんな人間があっちこっち歩き回っているならいろいろと問題が出てくるはずでしょ?確かに人口の半分が二十代って言う異常な年齢統計は……あれは役所がいじってるのよね。この国の戸籍の年齢なんて滅茶苦茶だもの。私もこの国に来てから七年になるけどずっと三十歳。それが通用しちゃうのよね。東和って変な国」 

 落ち着いたアメリアの声に誠もかなめも、そしてカウラも気がついた。彼女が部長権限で多くの情報をすでに得ているのは知っているので、二人とも納得していた。

「情報統制だけってわけでもねえよな。アタシも非正規部隊にいたころには噂はあったが実物がこういう風に囲われてるっていう話は聞いたことねえぞ。不老不死は便利だ。自分もなってみてえもんだ。それが甲武の特殊部隊の不死人に関する噂話のすべてだ。こんなバケモンになるくらいならよっぽど死んだ方がマシだ」 

 かなめの言葉に誠も頷く。東和軍の士官候補生養成過程でも聞かなかった『不死人』の存在。その存在を明らかにしてしまった自分の責任をどうとれば良いのか。誠は悩むことがまた増えたのを感じていた。

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