79.私と安菜だけの誓い
はーちゃんの光は、激しすぎた。
とっさに目を両腕でかばうしかなかった。
不思議と、熱も、音も、衝撃さえない。
ただ、光が消えるまでの間に、たしかに聞いたんだ。
『これにて、おさらばです』
はーちゃんの最後の声が。
声と光が消えると、また夜につつまれた。
焦りながら、やっと目がなれてきた。
ボルケーナ女神像は、消えていた。
ウイークエンダーは、コントロールが戻ってる。
私が最後にだした操作にしたがって、膝をついていく。
私はかけ戻る。
安菜も一緒についてきた。
だけど。
「安菜、これ持って避難して! 」
炊き出しの袋を、押し付けた。
それを安菜は押し返して。
「はーちゃん関連の指示をだすのは私だよ。
避難してほしいなら、まずコクピットの様子を見て! 」
そうなのかな?
まあ、反論するのもめんどくさかったから、それにしたがう。
スマホは、今度はちゃんと使えた。
これで、監視カメラの映像が見れる。
コクピットは、真っ白だった。
「はーちゃんが燃えてる! 」
熱源探知に切り替えると、いちばん熱い所が見えた。
白いのは、煙なんだ!
「他の部分は、自動検査がすむまで、まだ・・・・・・」
また焦ってしまう。
検査はまだかかる。
これまでの戦いで壊れた部分が、律儀に表示されていく。
画面に目を走らせるけど、もどかしい。
表示が端から、下に流れてく。
「一番重要な操作は、はーちゃんがやったはず」
おびえる声で言われた。
安菜から。
「その煙は、操作の負荷に耐えられなかったからだと思う」
そっ、それは、考えられる事だけど。
「うさぎ、はーちゃんを緊急脱出させて」
お願いと一緒に、銀の鎖につながれた黒い宝石。
メガ・エニシング・キュア・キャプチャーのネックレスをわたされた。
「いきなり何言うの!? 」
でも、安菜は止まらない。
「放棄、と言って良い」
私は、その言葉の冷たさに逆らった。
「放棄だなんてそんな! 」
初めて合った、地下の研究室。
あそこで聞いた笑い声が忘れられない。
あれが、私たちと同じ心を持つ証拠だと思ってた。
でも。
「はーちゃんは、破滅の鎧として、AIとして、ゲコンツ星のために働く使命に全てを使ったの。
私たちに都合の良い事をする義理なんか無いの」
・・・・・・私より良く見てるじゃない。
何て事。
でも。
「でも、まだ助かるかもしれないのに! 」
「早く乗りなさい!
次の相手は閻魔 文華なんだよ! 」
怒鳴られた。
「私が逃げるのを援護して! 」
その言葉は、たしかに冷静だった。
だけど、その表情は、本当につらくて、泣き顔で。
ああ、まただ。
なんで私は、安菜みたいな冷静な判断ができないんだろう。
「百万山神社までは、なんとしてでも逃げてよ」
それしか言う事は、ないじゃない。
安菜はうなづいて、ポケットから懐中電灯を取りだした。
私は反対を、ウイークエンダーを目指して走りだす。
足音が離れていく。
辺りのハンターキラーたちも、動きだした。
危ないかもしれないから、道の端に立ち止まる。
・・・・・・早く、連絡をいれないと。
「こちらウイークエンダー・ラビットの、佐竹 うさぎ。
これより、ウイークエンダーから不要な機材を放棄します。
回収は必要ありません」
もう一回、復唱。
次はスマホで遠隔操作。
はーちゃんを席ごと、ロケットではじきだすんだ。
本当なら緊急脱出に使われるレールに乗って、ウイークエンダーの背中から煙と、はーちゃんの席が飛びだした。
戻ってきた街の灯で、パラシュートが開くのがうっすら見えた。
それが終わったら、走るだけ。
乗り込んだら、あの閻魔 文華と向き合わなくてはならない。
パーフェクト朱墨が、ブロッサム・ニンジャが、ディメイション・フルムーンが動いてる。
家の影で見えないけど、七星も同じだろう。
なのに、私に浮かぶのは後悔だけだよ。
幼い頃、私たち二人だけで誓った。
世界中の誰も得も損もしない主君と騎士になった。
だからこれは、今の私だけの後悔。
また、安菜に重要な判断をさせて、泣かせてる。