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80.エレガントがくれるもの

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 騎士叙任式を、4歳のころにうけた。
 閻魔 文華に、魂呼長官が腕を吹き飛ばされた直後にね。
 私は、無力感に打ちひしがれた。
 そんな私を見かねて、安菜は精一杯考えてくれた。
 騎士の証である剣を、主君としてさずけてくれたんだ。
 くれた剣は、お家にあったリッパな包丁。
 全く使わないらしい。
 20万円位すると言ってたっけ。
 で、問題がひとつ。
 包丁を他人に見られたら。
「危ない! 子どもが刃物を持っちゃいけません! 」
 こんな感じで怒られる。
 だから普段、人がいない山奥の神社ですることにした。
 幼稚園の遠足で行ったこともあるし。

 歩いてるうちに、安菜が前を行く。
 それが気に入らなかった。
 気がつくと、かけっこしてた。
 神社に着いたときには、汗だくだった。
 どちらかと言うと肌寒い日だったはずなのに。

 安菜が神社の扉の前、拝殿に上がる階段に立つ。
 私はその前にひざまつき、頭をたれる。
 包丁の背で安菜が私の両肩をたたく。
 これがアコレード。
 見届け人も、ごちそうもない。
 私たちの誓いだけが残った。
 
 そうなんだ。
 その時もらった包丁は、もうないんだ。
 包丁がないのを、安菜のお母さんが気づいた。
 安菜は問い詰められたけど、何も話さなかった。
 それを見た私は、その場で理由を話した。
 すぐに包丁をかえした。

 だから、私が騎士だという証明は、ない。
 それでも、誓いは残ってる。
 弱き者の守護者、希望と希望をつなぐ架け橋、最もエレガントなパイロットになれ。
 4歳が考えたにしては、しっかりしてる。
 だから、本物の騎士の、気持ちはわかってるつもりなんだ。

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(そう思ってたんだ。
 だけど、あれは? )

 私のウイークエンダー、ブロッサム、ディメイションは、ある一点を囲んで長距離から監視体制にはいってる。
 さっきの訓練どおりにわかれて。
 パーフェクト朱墨は上空を旋回しながら。

 中心にあるのは、道路の交差点だった。
 街と百万山神社を、山沿いと川沿いで挟んでいた道が合わさる。
 そこから金沢市へつなげる道だよ。
 交差点はボルケーナ女神像の真下にあった。

 少なくなってたパトカーのサイレンが、また増えた。
 せっかく戻ってきた市民たちも、また避難しなくてはならなくなった。

 ハンターキラーも自衛隊でも、遠巻きに見張るしかない。
 彼らが道をライトで照らしながら、閉鎖する。
 地球製の戦車や装甲車。ライオン、キツネ型の宇宙製ロボットで。
 これからは、地球製から宇宙製ロボットに主力が変わってくのかな。
 だけど、どれも閻魔 文華だと。
 相手になるとは思えない。
 それは、あっちのパイロットたちもわかってるらしいね。
 道を塞いだあとは戦車からもロボットからもおりた。
 そして後方へ走っていく。
 道を塞いだのは、さらに後方の人々を守るため、少しでも壁にするためなんだ。
 自分たちは、剣でも銃でも使うんだ。
 言わば、歩兵として戦うつもりだ。

 交差点には、信号以外は動くものはなくなった。
 ただひとつ、不自然なものがある。
 青いベンチがある。 
 たぶん、木を青くペンキで塗った、三人座れそうなシンプルな物が。
 焼かれたり、どこかから投げ飛ばされたわけでもない。
 ただ、熱源探知で見るとわかる
 下に、何か暖かい物がある。
 ちょうど、人間くらいの。
(あれが、閻魔 文華? )

 戦車が封鎖する道から、小さな影が進みでた。
 黄色い車両型ロボットだ。
 小さなタイヤで走る車体に、1本だけアームを乗せてる。
 カメラとマイクはついてる。
 映像が配信されてくる。

 ロボットがライトに照らされたベンチ。
 それを細長い、それでも人よりは太いアームがつかんだ。
 そして、ひっくり返した。
 下に黒い何かがあった。
(これが、熱源探知に写った暖かいものなの? )
 怖い。
 閻魔 文華がしてきた悪行が頭をよぎる。
 そいつが今、何を起こすのか。
 恐ろしい。
 
 黒いものが、ゆっくり持ちあがった。
 動き始めると、それが何なのか分かりだした。
 黒いものは、雨ガッパ。
 だけど、ボロボロの穴だらけ。
 役に立つとは思えない。
 それと、長い黒髪だった。
 白い手が、髪をずらす。
 その手は、丸みを帯びた骨や青い血管が浮きでていた。
 髪から現れた顔は、白く、鼻は高い。
 顔立ちはほっそり?
 どうだろう?
 ほお骨が浮きでるほど、やせこけていたんだ。
 それでも。
「閻魔 文華だ」
 間違いなかった。
 赤い目をもつ強大な魔法使い。
 暗号世界の王女。
 魔術学園の、はじまって以来の犯罪者。
 
 それが汚れた顔で、特徴的な目で、無表情でロボットを見つめていた。

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