レティシアとマティアス2
マティアスはレティシアを何度もチラチラ見てから、蚊の鳴くような小さな声で言った。
「レティシアが言ったじゃないか、」
「え?」
「レティシアが言ったじゃないか。俺が王子ではない普通の男なら、結婚してくれるって!」
「はぁ?!」
マティアスのあまりのくだらない発言に、レティシアは怒りがわいた。まさかマティアスはレティシアの言葉を信じて城を抜け出してしまったのだろうか。もしそうならば、何としてでも城までおくり返さなければいけない。
レティシアの怒りを感じたのだろう。マティアスはオドオドしながら言った。
「レティシア、怒ってる?」
「はい、とても」
「うぇぇん」
「泣かないでください、王子殿下。わたくしが王子殿下の求婚を断ったのは、本当に王族になどなりたくなかったからです。ですが王子殿下の命令を聞かないわけにはいかなかったので、わたくしはあえて遠回しにお断りしたのです。わたくしは王子殿下の事は何ともおもってはいません!」
「ウソだ!レティシアは俺の事が好きなんだ!」
それまで弱気だったマティアスが、急に声を荒げた。レティシアはマティアスへの想いはひた隠しにしていた、気取られるわけはないのだ。レティシアは慎重に質問した。
「王子殿下。何故わたくしが王子殿下をお慕いしていると考えたのですか?」
「!」
強気だったマティアスが再びモジモジしだす、とても忙しい。マティアスはレティシアの顔色をうかがいながら言った。
「レティシア、怒らない?」
「事と次第によっては怒ります」
「やだ!絶対怒んないって約束してくんなきゃ言わない!」
マティアスは顔を真っ赤にして叫ぶ。口調がどんどん幼くなっていく。まるで大きな子供だ。それまでレティシアの肩に乗って傍観を決め込んでいたチップがため息をついた。
『驚いた。バカ王子ってだけじゃなく、まるで子供じゃない。これはヴィヴィが相当甘やかして育てたね』
「・・・。それについては同意見だわ」
話しが進まないので、レティシアは仕方なく決して怒らないと約束してマティアスの言葉をうながした。
マティアスは意を決したように、両手をギュッと握って言った。
「俺、相手の気持ちがわかる魔法が使えるんだ」
「!。マックスの気持ちがわかるんですよね?チップが申しておりました」
「マックスだけじゃない。感情のある生物なら魔法を発動させれば心を読む事ができる」
「ヒッ!」
マティアスの発言に、レティシアは悲鳴をあげた。マティアスは、レティシアのいつの心の中を読んだのだろうか。レティシアは頭が混乱して固まった。