レティシアとマティアス3
レティシアが固まったまま動かないので、マティアスは気づかわしげな顔で言った。
「レティシア、怒った?」
「いつ、」
「えっ?」
話し出したレティシアの声が小さかったのだろうマティアスが聞き返した。レティシアはゴクリとツバを飲み込んでから、声がかすれないように言った。
「わたくしの、いつの心の中を読んだのですか?」
「あっ、うん。三回。最初はレティシアに求婚のあいさつをしに行った時。レティシア初めて会った時、乗馬服着込んで兵士に志願したいなんていうからさ。どういう考えなのか知りたくて読心の魔法を使った。レティシアは本心から、霊獣殿とお母さんが眠るザイン王国を守りたいっていう気持ちだった。俺、レティシアみたいに姿形も心も綺麗な人間初めて見たんだ。多分、あの時からレティシアの事が好きだったんだ」
マティアスの偽りない言葉に、レティシアの頬は真っ赤になった。レティシアの顔色に気づいていないマティアスは言葉を続ける。
「二回目は、レティシアとリカオンが剣の手合わせする時だ。リカオンは優秀な剣士だ。レティシアに手加減してくれるだろうが、もしレティシアがお話にならないような弱さだったらケガしてしまうと思った。だがレティシアは剣の実力に裏付けのある自信を持っていたから手合わせを許可したんだ」
そうだったのか。リカオンはレティシアと真剣を交える事をとても嫌がっていた。だがマティアスはレティシアの自信を信じて手合わせの許可を出してくれたのだ。この言葉はレティシアを喜ばせた。
三回目は、とマティアスが言葉に出してから口ごもった。チラリとレティシアを見てから話し出した。
「三日月を一緒に見た時、」
「えっ?」
「・・・。レティシアに褒美は何がいいかって聞いた時」
「えっ?!」
「レティシア。その時、ずっと俺の側にいたいって。俺の事、慕ってるって、」
「い、嫌ぁ!!」
レティシアは頭が爆発しそうなほどに顔が真っ赤になった。レティシアの心はとっくにマティアスに知られていたのだ。
レティシアは怒りと恥ずかしさといたたまれなさで、マティアスにつめより彼の胸板をバンバンこぶしで叩いた。
「ひどい!いじわる!変態!大っ嫌い!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!二度としません!」
レティシアの剣幕に、マティアスはあたふたしながら弁解した。いきどおるレティシアの肩に、マティアスの優しい手が置かれる。
「レティシア、聞いてほしい。俺はバカだし剣を振るうしか脳がない。俺の歩いてきた道は血にまみれている。そんな俺を、レティシアみたいな人が好いてくれるなんて思ってもみなかった。俺は、レティシアが少しも俺を好いていないとわかれば、レティシアの前からキッパリ消えるつもりだった。だけど、レティシアは俺を好きだと想ってくれた。俺は、レティシアを諦める事なんてできないよ」
レティシアの肩に置かれたマティアスの手に少しだけ力が入った。