レティシアとマティアス
マティアスはきっと愛馬のマックスに乗ってやってくるだろう。どのくらいでこの場に到着するのだろうか。マティアスがやって来たら、おもてなしをしたいが、レティシアには住む家も、もてなす料理もない。
レティシアは仕方なくチップに頼んで果物をとりに行った。何かしていないと落ち着かないからだ。
一体マティアスに何があったのだろうか。困った事だろうか。もしレティシアにできる事ならば力になりたい。
そうこうしているうちに再びリングの宝石が点滅した。マティアスはすぐ近くまで来ているというのだ。
レティシアは急に慌て出して、アワアワしているとガサリと草音がした。そこには美しい白馬がいた。
「ティアラ!」
レティシアは自身の愛馬に駆け寄って、首に抱きついてから何度もキスをした。もう二度と会えないと思っていたティアラに会えたのだ。
「ティアラ、会いたかった」
ティアラも嬉しそうにブルルといなないた。レティシアの肩に乗っていたチップが、ティアラの頭に飛び乗った。
『やっほー!ティアラ!』
ひとしきりティアラとの再会を喜んでから、レティシアははたと考えた。何故ここにティアラがいるのだろうか。
ティアラの後ろから情けない声がする。
「レティシア、俺もいるんだけど、」
「マティアス王子殿下!」
レティシアはマティアスにあいさつのお辞儀をしてからたずねた。
「王子殿下。何故ティアラを連れてきてくれたんですか?」
「その。レティシアが喜ぶと思って」
「はい、とっても嬉しいです。ですがマックスは?」
「マックスにはちゃんと別れを告げてきた」
「別れ?」
レティシアが驚いてマティアスを見ると、彼はあわあわしだした。彼はチラチラとレティシアを見ながら小さな声で言った。
「あの、その、俺、城を追い出されて行く場所がないんだ」
レティシアはポカンと口を開けた。マティアスがおかしな事を言ったからだ。マティアスが城から追い出されるわけがない。
ルイス第二王子とヴィヴィアンとリカオンはマティアスの事を深く愛している。そんなマティアスを城から追い出すわけがないのだ。レティシアは低い声で質問した。
「王子殿下は何ゆえ城を追い出されたのですか?」
「えっ?!えっと、その、うんと、ルイスのお菓子を勝手に食べちゃって、ルイスに怒られて、出ていけって言われたから、出ていってやるって言って出て来た」
「では、ルイス第二王子殿下とケンカして、引っこみがつかなくて、行く場所がなくて仕方なくここにいるという見解でよろしいでしょうか?」
「ち、違う!」
「では嘘などつかないで本当の事をおっしゃってください」
「えっ?嘘?」
「はい。王子殿下がどんな失態をおかしたといえども、ルイス第二王子殿下とヴィヴィアン師匠、リカオンさまは決して王子殿下を見放したりなんかしません。それは一兵士のわたくしが見ていてもわかります」
「・・・。レティシア、俺の家族を理解してくれてありがとう、」
マティアスはルイス第二王子とヴィヴィアンとリカオンを家族と言った。マティアスにとって彼らはかけがえのない存在なのだ。
それならばなおさらマティアスがここにいる意味がわからない。