【語り部婆さんユグ】の調べ
「それは動乱の時代の始まりじゃったのじゃ!」
Q.……。
「彼の者たちがこの国に足を踏み入れた時! 世界の命運は決まってしまった!」
Q.……。
「そこの若者よ! 逃げるでない!」
Q.……あー。
「ヤベェ奴に捕まっちまったなんて顔をするでないぞ!」
Q.いえいえ、まさかそんな……。
「彼の者がこの国に足を踏み入れる瞬間! それをこの目でしかと見た!」
Q.はあ、そうなんですか……。
「お、ユグ婆、今日もやってんなー」
Q.ユグ婆、とは?
「あそこの婆さんの名前だよ。毎日毎日、飽きることなくご苦労さんって感じだよな」
Q.毎日こんな感じなんですね……。
「長く生きてるからなぁ。多分そろそろボケが始まってんだと思う」
Q.ボケてる割にはものすごくお元気な……。
「活動的なボケ老人ほど、扱いにくいもんはねぇよ。頭アレなのに、元気だけはありあまってっからよ。あっちこっちに行って回収が難しいのなんの」
Q.大変なことお察しします……。ところで、あなたは?
「ユグ婆の近所に住んでる者だ。なんだかんだで昔世話になってたからなぁ。ユグ婆の介護がてら、ちょくちょく見に来てんのよ」
Q.お疲れ様です。
「もう慣れた。それより、客人が久々だから、ユグ婆もハッスルしてんだと思うんだわ。なあ、悪いんだけど」
Q.いえ、ご遠慮します。
「そうそうご遠慮なさらんでって」
Q.無理です無理です。永遠に終わらない気がしますもん。
「大丈夫終わる終わる。日付変わるまでには終わるって」
Q.あとどれだけ時間があると思ってるんですか?! まだ、昼間ですよ!
「俺これから夕飯作らなきゃなの。ユグ婆の相手してる暇ないの!」
Q.こっちも先を急いでいるんですよ!
「あー、あー! 分かった! じゃあこうしよう!」
Q.なんでしょうか!
「ユグ婆の話し相手になってくれるなら今日の夕飯ご馳走してやる!」
Q.………。
「どうだ?!」
Q.……寝床と明日の朝ごはんまでセットで。
「うぐっ……。背に腹は代えられないか。乗った!」
Q.交渉成立ですね。よし、覚悟決めるか……。
「……椅子、そこの使っていいぞ。クッションあるし、多少マシなはずだ」
Q.ご配慮感謝します。……わ、なんか、モチモチしてて弾力があるクッションですね。綿、ではないですね?
「スライムを原料に使ってる。この辺りのちょっとした小遣い稼ぎだよ」
Q.そうなんですね。スライムって加工できたんだ……。
「じゃ、俺は夕飯作ってくるから」
Q.さて……と。では、お話聞きますか。
「お主、動乱の時代に入った話を知っているか!」
Q.ええ、はい。さっき聞きましたし……。
「その動乱の時代には! 旅人が三人おったそうじゃ!」
Q.へぇ、そうなんですね。
「一人は子供! 一人は商人! そしてもう一人は、仮面の旅人じゃったという!」
Q.へぇ、そうなんですか。……んん? 仮面の、旅人?
「そうじゃ! パレードの日にやって来た!」
Q.……その仮面の旅人とは、テオとかいうお名前ではないですか?
「名は知らぬ! 奴らが引き連れてきた大群を見たのじゃ!」
Q.大群、ですか?
「そうじゃ! ヤツらは草原の悪夢を引き連れてやって来た! 当然門の中には入れぬ! 街の中に入れるわけにはいかぬからの!」
Q.草原の悪夢、とやらが大群で押し寄せていたんですね? それで、その後はどうなったんですか?
「旅人が退けた! 風が舞い! 炎の柱が天へのぼり! 空の裂け目から神の鉄槌《てっつい》が下った!」
Q.ええっと……。魔法を使ったってことでいいのかな?
「草原の悪夢はその裁きですら屈することなく、そこを埋め尽くさんばかりに大挙して押し寄せていた!」
Q.援軍でも来たということ……ですかね?
「否! 草原の悪夢は一にして全! すべてが同じであり、すべてが違う!」
Q.だめだ、そろそろ理解が追いつかなくなってきた。
「草原の悪夢を払うには、神の如し柱を立てねばならぬ! それに恐れ慄く草原の悪夢は、たちまち消え去ることじゃろう!」
Q.神の如し柱?
「強大な力じゃ! 並大抵の者には扱いきれぬ力じゃ!」
Q.えぇっとぉ……。さっきは魔法の話をしてて、柱?
「動乱の旅人は! 神の如し柱を建てた! それはもう見事なものじゃった!」
Q.あ、これ魔法だ。魔法のこと言ってますね多分。
「草原の悪夢は皆掻き消えた! 断末魔も残せぬ神の如し柱は! 慈悲! 動乱の旅人の慈悲であった!」
Q.あー、痛みも無く消えてそうですもんね……。
「人々は安寧を取り戻した! 草原の悪夢は消えたのだ!!」
Q.わーパチパチー。……これ、一段落ついたってことでいいのかな?
「その草原の悪夢の名は!」
Q.あ、まだ続いてた。
「スライムという!」
Q.草原の悪夢尻に敷いちゃってますが。