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「何? 旧リガルド王国の話を聞きたい?」
酒場の主人は、読んでいた新聞を机に放る。
閉店前の、伽藍洞の酒場の中。
彼は睨みつけるように虚空を見据える。
「あの国は、それはもう酷いものだった。人を人とも思わん所業。潤うのは王族と貴族、それに連なるものだけで、平民は常に貧困に喘いでいた」
主人は訥々と語る。
「昔も昔、大昔の話さ。俺ぁ、まだ何も分かんねぇ鼻ッタレのガキだった。そんなガキの手を引いて、あの国から逃げ出したおっ母は、あの国からの人間の流出を嫌った、偉い奴らからの兵に撃ち殺されたんだ」
酒場の主人は、忌々しそうに舌打ちをする。
「運が良かった。俺ぁ、運良く、助けてもらえただけだ」
主人は大きなため息を吐く。
「今でもあの時のことは夢に見る。息切れするほどに走って、口の中に血の味が広がる感覚も、目の前でおっ母が撃たれて、横っ飛びで吹っ飛ぶもんだから、いきなり目の前が眩しく開けたあの光景も」
彼はふっと目を細める。
眩しい何かを思い出すように。
「ざんばら切りの短い髪だった。白みたいな銀色の髪だった。太陽の光に照らされて、きらきら湖のように光ってた。
上背が高くて、細身で、そんで仮面を被ってるもんだから、まるで男のように見えたんだ」
主人の口調は熱を帯びていく。徐々に、徐々に速くなっていく。熱に浮かされていく。
「そのきらっきらした髪の毛からな、真っ赤な真っ赤な血が幾筋も垂れてるもんだから、恐怖を感じなきゃ可笑しかったんだ。だけど、ああ。見惚れるほど、殺されてもいいと思うほど、あれはとても綺麗だった。あれほど美しいモノは、あれ以来、今でも見たことがない。今でも、仮面越しのあの金の眼を思い出すんだ」
熱に浮かされた彼の唇。
彼は朗々と謳い上げた。
「我々を救い出してくれた、【聖女様】の」
窓の外を見る。
暗い空に青みが掛かり始めている。
もうすぐ、夜が明ける。
これは、今は亡き亡国のあったある日。
飢えと渇きと憎しみに喘ぐ人々を救ったとされる、【革命の聖女】。
その人生の、ほんの一端。
人々の口端に登る、噂話程度に他愛のない、御伽噺にも似た物語である。0クル
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魔法のシロップ屋さん~シロップ屋さんのポーションは飲みやすいと評判です~
ダンジョンが世界各地に現れて三年。
サラリーマンなど、生活を営む上で重要な各種職業とは別の概念の、ダンジョンに対応するための適正職業(ジョブ)が可視化されたことに、人々は順応した。
十七歳。高校二年生の夏休み前。
一定の基準に達したため行われた適正職業検査で、斎藤 恵美は盗賊(シーフ)という適正職業が判明する。
恵美は調合師の姉、斎藤 カナタが開く『シロップ・メディ』を手伝うため、ダンジョンで素材集めに奔走する。
そうしているうちに、少しずつ、カナタの作るポーションが有名になっていく。
大体そんな物語。
※ノベリズムさんで先行更新中
カクヨムさんで同時公開中0クル
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