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舞踏会

 ようやくレティシアがマックスたちを連れて城にやってきた。かねてから準備していた通り、慌ただしく祝賀の宴の準備が行われる。

 祝賀の舞踏会が始まると、マティアスはレティシアをダンスに誘った。以前マティアスがレティシアの心を読んだ時、彼女はマティアスとのダンスが嬉しかったと心に念じていた。

 マティアスがレティシアとダンスを踊るのはこれが初めてだ。何故レティシアがマティアスとダンスを踊ったと、過去形で考えていたのかよくわからない。夢で見たとかだったら嬉しい。

 レティシアはダンスの経験が無いという。マティアスにとってはありがたい事だ。何故ならマティアスもダンスが下手だからだ。

 初心者と下手くそのダンスはとても楽しいものだった。踊り疲れた頃、マティアスはかねてより計画していた通り、レティシアをバルコニーに誘った。

 夜の外は空気が冷えていた。だがダンスを踊って身体が温まっているマティアスたちにとっては、心地よかった。

 マティアスは膝をついてレティシアに求婚した。彼女の返答は、は?だった。

 マティアスの思考は完全に固まってしまった。百パーセント成功すると考えていたプロポーズが失敗してしまったからだ。

 レティシアはマティアスが王族だから求婚を拒否したのだと答えた。王族には王族の義務があると。
 
 幼い弟にも同じ事を言われた。王族には国民を守る義務があるのだと。

 マティアスは諦めきれなくてレティシアに質問した。もし自分が王子ではなく、ただの平民の男だったならば、求婚を受け入れてくれたか、と。

 レティシアは瞳に涙を浮かべながら、はい。と答えてくれた。マティアスは、今はこれだけで満足しようと考え、用意していた指輪をレティシアに渡した。

 プラチナに透き通ったルビーがはめ込まれたリングだ。レティシアは嬉しそうに受け取り、左手の小指にはめた。魔法のかかった指輪は、彼女のほっそりとした小指に相応しいサイズになった。

 本当だったら左手の薬指にはめてほしかった指輪だ。マティアスは思わず苦笑した。

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