マティアスの別れ
舞踏会が終わった後、マティアスはヴィヴィアンとリカオンとルイスにつめよられた。
「マティアス。どういう事なの?レティシアお嬢さまにプロポーズして、受けてもらえるはずじゃなかったの?」
「うん、その、断られた」
ヴィヴィアンが腕を組んでマティアスをにらむ。とても怖い。
「何でだよ!マティアス、お前レティシアの心を読んで確認したって言ったじゃねぇか」
「ヒッ!リカオン!それは言わない約束じゃ、」
リカオンの言葉に、ヴィヴィアンの顔がさらに険しくなる。ヴィヴィアンはいつも言っていたのだ。心優しいレティシアの心だけは、魔法で読んではいけないと。
ルイスはヴィヴィアンに抱きついて言った。
「ねぇ、ヴィヴィ。兄上の話しも聞いてみようよ?兄上、レティシア嬢はなんて断ったの?」
ルイスがマティアスに加勢にはいってくれた。ヴィヴィアンはルイスにすこぶる弱い。
「ああ。レティシアは、俺に王族の責務を果たせと言っていた」
「?。兄上は王位を継がないと、レティシア嬢に言わなかったのですか?」
「もちろん言ったさ。俺は国王にはならない。ルイスがなるから安心して嫁いできてほしいって。でも、レティシアは、俺は国王の兄としての責務があるだろうって。・・・。だけどな、俺がもし、普通の平民だったら、嫁になってくれたかって聞いたら、レティシアははいって答えてくれた」
思い出しただけでも悲しい。マティアスはレティシアにふられてしまったのだ。
目の前のリカオンがグウッとうなってから叫んだ。
「レティシア!なんて懐のでかい女なんだ!」
「ああ、レティシアお嬢さま。私が見込んだ以上のお方だわ」
リカオンに続き、ヴィヴィアンも感極まったように言った。
「どうしたの?二人とも。俺、レティシアにフラれたんだだぜ?」
「「バカ!お前はふられてない!」」
リカオンとヴィヴィアンの声が見事に重なる。
「レティシアはなぁ、マティアス。王子とかの肩書き抜きに、お前自身を好きになってくれたんだぞ?!」
「そうよ、マティアス。貴方から王子を取ったらバカしか残らないのによ!」
リカオンとヴィヴィアンはやつぎばやにマティアスに叫ぶ。
「・・・。そうかな?それにしても、ヴィヴィ。ひどくない?」
「ああ、ごめんなさい、マティアス。ついつい本音が!」
ヴィヴィアンはマティアスを抱きしめて頭を撫でてくれる。何だかんだでマティアスに甘い。ヴィヴィアンいわく、バカな子ほど可愛いというのだ。それってほめ言葉なのだろうか。
「マティアス。何がなんでもレティシアに結婚してもらえ!」
「そうよ!身一つでレティシアお嬢さまを追っかけなさい!」
リカオンとヴィヴィアンの言葉に、マティアスはちゅうちょする。
「え、でも、俺も王族としての責務を、」
王位は弟のルイスにゆずるので、マティアスは公爵の爵位を得て、ルイスの警護にあたる予定だった。
マティアスはリカオンとヴィヴィアンの後ろにいるルイスを見た。ルイスは口をギュッと結んでうつむいていた。