マティアスの別れ2
ルイスはずいっと、マティアスの目の前に立つと、キッと目を細めて叫んだ。
「その通りだよ、兄上!兄上みたいなポンコツをもらってくれる人なんてレティシア嬢しかいない!早く追いかけてよ!」
「だけど、ルイス、」
「僕はね、これからザイン王国の国王になるんだ!兄上みたいなおっちょこちょいのうっかり者なんて、いなくたってどって事ないんだよ!」
ルイスの言葉とは裏腹に、ルイスの心の叫びがマティアスの心に飛び込んでくる。
行かないで、兄上。怖い。寂しい。ずっと側にいて。離れないで。兄上大好き。
マティアスは胸が苦しくなって、泣きじゃくる弟を抱きしめた。リカオンもヴィヴィアンも、マティアスとルイスを痛ましそうに見つめたいる。
「ルイス、約束する。もしお前に困った事が起きたら、俺は飛んで帰ってくるから」
「兄上の、嘘つき!」
「たく、どっちが嘘つきだよ」
ルイスがようやく落ち着いた頃、ヴィヴィアンが仕切りなおすように言った。
「さぁ、マティアス。ルイスの事は私とリカオンに任せなさい。貴方は早くレティシアお嬢さまを追いかけるのよ?何も持たずにね?」
「えっ、でもレティシアに何か贈り物をしないと、」
「いいえ。何も持っていく必要はないわ。マティアスに財力があるとわかれば、レティシアお嬢さまはまたもや結婚を拒否するでしょう」
「?。なんで?」
ヴィヴィアンはため息をつきながら答えた。
「レティシアお嬢さまはね、ものすごく自己肯定感の低い方なの。マティアスが資産を持っていれば、レティシアお嬢さまは、それを元手に素敵な貴族の女性と良い暮らしをしてと答えるでしょう。だから、マティアスは城を追い出され、王族の地位を剥奪され、無一文だと言うの。そうすればレティシアお嬢さまの同情をひく事ができるわ!」
「なるほど!そうか!」
マティアスは納得したが、リカオンは浮かない顔だ。
「・・・。ヴィヴィ。手口が詐欺師のそれだよ」
「おだまり、リカオン。私はね、レティシアお嬢さまと数ヶ月一緒に過ごして確信したの。レティシアお嬢さまは素直で親切な根っからの善人よ。ボロボロになって助けを求める人をないがしろにはできないはずだわ」
自信満々のヴィヴィアンを、リカオンがうろんな表情で見ている。
マティアスは首にしがみついたままのルイスを抱っこしながら言った。
「わかった。俺は何も持たずに城を出る。だがティアラは連れてく」
「?。かんむりを持っていくの?」
ヴィヴィアンが不思議そうに聞く。
「いや、レティシアの親友だよ」